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パワー半導体

パワー半導体では韓国や中国は日本に勝てない。DRAMのようにはいかない理由

「なぜ日本は半導体で韓国に負けたのか」

日本のメディアは、よくそんなことを言い続けていたりするが、それは様々な種類がある半導体の中でもDRAMやNANDフラッシュといったメモリ分野、特にDRAM分野であって、半導体の種類によっては日本が韓国よりもはるかに圧倒している分野がある。その一つがパワー半導体。

パワー半導体

今後、自動車のEV化や電力需要の拡大、そして本格的にデジタル社会が進む中で、比例してパワー半導体の需要も拡大する。

市場規模は2020年の1兆7000億円レベルから2030年には5兆5000億円レベルになると予想されているが、そのパワーデバイスにおいて日本企業は高いシェアをキープ。

しかし、やはり日本の電子産業はバブル崩壊以降、衰退ぎみなので、「パワー半導体においても韓国や中国に負けてしまうのでは?」みたいな心配する人もいたりする。

しかし、結論から言えば韓国勢や中国勢がこの分野で日本企業に容易に追いつく事は難しい。

パワー半導体は多品種少量生産

まず、パワー半導体のパワーというのは電力のことで、電力を制御や変換を行う半導体の事。スマホやPCに搭載されているCPUや、DRAM、NANDフラッシュメモリのようなデジタル半導体とは違うモノ。

電気を使用する製品はあまりにも多種多様であり、パワー半導体分野においても顧客のニーズに合わせていろいろな製品を作らないといけない。必然的に多品種生産となる。

韓国勢が競争に勝った半導体メモリのような規格化された一つの製品を大量生産すれば勝てるような分野ではないので、爆発的なシェアや利益をもたらす事はできない。

つまり、パワー半導体の分野は、サムスンが半導体メモリ分野でやってきたような以下のサイクル。

国策で財閥優遇 → →大型集中投資 →→ メモリ大量生産 →→ 安売りでライバルを淘汰 →→ 市場を寡占化 →→ 市場を占有して高利益商売

こういった戦略は通用しない。これがサムスンなどの韓国勢がパワー半導体分野に参入してビジネスを拡大させにくい理由の一つ。

業界が寡占化されにくい

韓国勢が成功した半導体メモリ分野で言えば、DRAMでは微細化、NANDでは積層化のための多額の設備投資が必要となる。その投資競争についていけないライバルが撤退。結果、寡占化が進んでしまった。

しかし、パワー半導体分野はDRAMやNANDのような多額の設備投資競争になりにくい。この分野はメモリと比較して多品種少量である事が多いため、財務力がそこそこの企業でも小規模でビジネスを続ける事が可能。

それが競争原理を維持できる理由。多額投資で一気に同業他社を撤退に追い込み、利益を独占するようなサムスン戦略は通用しない。

かつての恵まれた環境はやってこない

韓国の半導体産業は漁夫の利で成功したようなもの。そんな恵まれた環境は2度と来ない。

まず、サムスンがDRAMに参入したのが1980年代前半。そして、DRAMで世界トップになったのが1992年。約10年でDRAMトップになったが、いくらなんでもスピード成長にもほどがある。

韓国勢がDRAMで急激に飛躍した1980年代後半から1990年代は、日本がアメリカからの不条理な制裁を受けていた「日米半導体協定(1986年~1996年)」の時期。

これは情報産業を守りたいアメリカが、ハイテク産業の日本集中を恐れて制裁したもので、この制裁により日本企業はやむを得ず半導体シェアを落とす必要があった。

また、バブル崩壊においてもアメリカが日本の衰退を望んでいたため、積極的な金融政策をする事もできず、ズルズルと不景気が長引いてしまった。その結果、日本の半導体産業は一気に縮小。

一方の韓国勢は日本勢が停滞している時に一気に半導体に多額投資。それが現在のメモリ半導体の地位につながっているワケだが、韓国はもう2度とそういった恵まれた時代は来ない。

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業界シェアを確認

【2020年度】パワー半導体の世界シェア(ディスクリート+モジュール)
順位 企業 世界シェア(%)
1位 インフィニオン・テクノロジーズ ドイツ 19.7%
2位 オン・セミコンダクター アメリカ 8.3%
3位 STマイクロエレクトロニクス スイス 5.5%
4位 三菱電機 日本 5.0%
5位 東芝 日本 4.6%
6位 富士電機 日本 4.6%
7位 Vishay アメリカ 3.5%
8位 ルネサスエレクトロニクス 日本 2.6%
9位 ローム 日本 2.5%
10位 Diodes アメリカ 2.4%
出所:インフィニオン決算報告書より引用。2020年度のパワー半導体の市場規模は210億ドル。
  • 日本勢は、三菱、東芝、富士電機、ルネサス、ロームがトップ10にランクイン。ランク外だが、他にもミネベアミツミ、日立、デンソー、サンケン電気などもパワーICを手掛ける。
  • 日本企業すべてのシェアを合計すると、世界シェア25%前後を占める。

多くの企業で生態系がもたらされる現状を見れば、それだけ安定性のあるビジネスだといえる。そして、競合企業が多い中、市場規模もメモリ分野ほど大きくないため、大きな利益を出しにくい。それが参入を難しくする。

つまり、韓国が成功したDRAMのように、国策と財務力で一気にシェアを確立できるビジネスとは違うという事。

メーカー売上と利益

世界のパワー半導体メーカーの2019年の売上と利益を簡単にまとめた。

2019年のパワー半導体トップ6企業の売上高と利益率
企業 売上高 営業利益
[営業利益率(%)]
インフィニオン
(ドイツ)
9610億円 1041億円
[10.8%]
オンセミコンダクター
(アメリカ)
5878億円 847億円
[1.4%]
三菱電機
(部門業績)
2087億円 87億円
[4.1%]
東芝
(部門業績)
7456億円 134億円
[1.8%]
STマイクロ
(スイス)
1兆192億円 412億円
[4.0%]
富士電機
(部門業績)
1420億円 129億円
[9.0%]
簡単に1ドル=100円で換算。メーカーによってパワー半導体以外の割合が多いケースもあるが、一つの目安として参考に。また、全体的に利益率が低いが、2019年は半導体不況だった事も関係。
  • 業界トップシェアのインフィニオン(ドイツ)でも利益率が10.8%。三菱が4.1%、東芝が1.8%、富士電機が9.0%。
  • サムスンやSKの半導体事業は30%前後の利益率だが、パワー半導体はそれと比べれば収益性がかなり低い。
  • ポジティブ転換すれば、利益が出ないからこそ参入が難しいという事でもある。だから韓国勢の本格参入は難しい。
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韓国企業がパワー半導体で大成功できない理由

韓国勢は技術エンジニア不足

パワー半導体の分野は、経験豊富な技術者がたくさんいないと成立しない分野であり、ビジネスレガシーも必要なので、それをもっていない韓国勢や中国勢が新たに入り込んでその地位を確立するのは難しい。

中国は市場規模が大きいため、相応のシェアはとれるかもしれないが、韓国勢は無理と言える。

アナログなモノづくり

DRAMは「装置産業」と言われる。製造設備に依存した機械的な分野で、高額な投資競争についていけるかどうかがカギとなる。

一方、パワー半導体は極めてアナログ的な製造。この分野で英知を育み、地位を確立するのはあまりにも長い時間がかかる。

品質と価格とのバランス

パワー半導体は、品質やコスト、販売価格のバランスをどう取るかに難しさがある。長い歴史の中で築いたノウハウがないと無理だという事。

儒教の慣習じゃ無理

韓国が好きな「儲け方」は、半導体メモリ、スマホ、ディスプレーのような市場規模が大きい分野に集中投資してドカっと稼ぐやり方。

パワーデバイスのように、ドカっと稼ぐ事ができない分野は韓国人は軽視しがち。半導体どうこうの前に、韓国は儒教由来の身分制の影響でコツコツ働く意識が低いまま発展したのが問題。

誰も技術供与してくれない

サムスンの半導体というと、何もかもが日本やアメリカからの技術供与で成立している。

  • DRAMの設計技術はアメリカのマイクロンからの技術供与。
  • 半導体製造技術は日本のシャープからの技術供与。
  • NANDフラッシュは東芝から技術供与。(セカンドソース目的)

ライバル企業がサムスンに技術供与してきた背景には、昔は韓国は国力が低く、韓国企業に脅威を持っていなかった事があげられる。

しかし、現在は韓国の財閥企業は普通に脅威となったため、例えパワー半導体の技術供与を求めても、どの企業も応じる事はない。いちいちこんなこと説明するまでもなかろう。

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企業買収を考えている

サムスンやSKハイニックスは、自分達の力で半導体ビジネスを拡大するのは時間もコストもかかるので、大手海外企業の買収を考えている。そういう噂が業界ではチラホラ出ていたが、ここ最近、実際にそういう報道がでている。

サムスンが海外大手を買収?

以下は、2021年1月31日付の韓国経済新聞の報道。

韓国のサムスンが、ルネサス(日本)、テキサスインスツルメンツ(アメリカ)、NXPセミコンダクターズ(オランダ)の3社のいずれかの買収を検討している。
https://news.mynavi.jp/article/20210201-1684229/

やはり自動車がEV化する時代、成長分野がパワー半導体やアナログ半導体なので、そこを狙っているという事だろうが、基本的に笑ってしまうニュース。言うまでもないがそれらの買収提案はどれも難しい。

  • 日本のルネサスは、顧客が日本の自動車企業が中心。株主勢も日本の中核企業。政治的な対立を繰り返す韓国とは安全保障の問題で絶対無理。
  • テキサスインスツルメンツ(TI)は株式時価総額16兆円。買収には普通に20兆円以上はかかる。おそらく、半導体産業を守りたいアメリカ当局の承認が下りないはず。そもそも、TIは黎明期から続く名門でサムスンが軽々しく買収できるような企業ではない。
  • NXPは現在の時価総額6兆円くらい。買収には10兆円前後かかる。そしてアメリカや中国当局の承認が下りないと思う。なお、2017年に米クアルコムによるNXPセミコンダクターズの買収が進んでいたが、中国の独占禁止法の承認が下りずに頓挫している。

つまり無理。報道が事実ならばサムスンは根本的な事を間違っている。

SKもパワー半導体に参入の動き

韓国SKハイニックスも、韓国内のパワー半導体ベンチャーに出資して、その分野への進出をはかろうとしている。以下は2021年1月28日のニュース。

韓SKグループの持ち株会社であるSK Holdingsは2021年1月28日、2017年設立の新興SiC半導体デバイスメーカー「Yes Powerteknix」の転換社債を引き受ける形で、同社株の33.6%を268億ウォンで取得すると発表した。
https://news.mynavi.jp/article/20210129-1678316/

今のところあまり気にしなくていいレベルのニュース。しかし、その会社がどれくらい成長するのか見たい気もする。

最後に

韓国半導体は、近年メモリ分野で急激に飛躍した成金企業にすぎないが、そのメモリで爆発的な収益と財務力を築くようになったため、パワー半導体分野に本格参入すると将来的に脅威になるのは事実。

しかし、パワー半導体分野は、DRAMのようなメモリ量産ビジネスとはかなり違うため、韓国勢はすぐに日本企業を圧倒するような存在にはならない。

なお、パワー半導体だけではなく、アナログ半導体においても韓国は地位を確立する事は難しい。理由は、だいたいパワー半導体の理由と同じ。

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