ARMの通期売上推移
年度 | 売上高・収益 | 営業利益 [営業利益率(%)] | 純利益・最終損益 [純利益率(%)] |
---|---|---|---|
2011年 | 4.91億ポンド (786億円) | 1.49億ポンド (238億円) [30.2%] | 1.12億ポンド (179億円) [22.8%] |
2012年 | 5.77億ポンド | 2.08億ポンド [36.0%] | 1.60億ポンド [27.7%] |
2013年 | 7.14億ポンド | 1.53億ポンド [21.4%] | 1.04億ポンド [14.6%] |
2014年 | 7.94億ポンド | 3.09億ポンド [38.8%] | 2.55億ポンド [32.1%] |
2015年 | 9.67億ポンド (1547億円) | 4.06億ポンド (650億円) [41.9%] | 3.39億ポンド (542億円) [35.0%] |
年度 | 売上高・収益 | 営業利益 [営業利益率(%)] |
---|---|---|
2016年 | 16.89億ドル (ソフトバンクの業績に反映された2016年9月6日から翌年3月末までの売上高は日本円で1129億円) |
(ソフトバンクの業績に反映された2016年9月6日から翌年3月末までの営業利益は日本円で129億円、営業利益率11.4%) |
2017年 | 18.31億ドル (2023億円) |
-2.82億ドル (-313億円) [-15.4%] |
2018年 | 18.36億ドル (2026億円) |
12.12億ドル (1339億円) [66.0%] |
2019年 | 18.98億ドル (2066億円) |
-3.93億ドル (-428億円) [-20.7%] |
2020年 | 19.80億ドル (2098億円) |
-3.19億ドル (-338億円) [-16.1%] |
2021年 | 26.65億ドル (3000億円) |
3.65億ドル (412億円) [13.7%] |
2022年 | 28.17億ドル (3817億円) |
3.45億ドル (487億円) [12.2%] |
- ARM(アーム)は、1990年にイギリスで設立。英ケンブリッジ大学発のスタートアップ企業がルーツ。
- 工場を持たないファブレス企業。低消費電力型マイクロプロセッサーの設計技術(ARMアーキテクチャ)の販売や、知的財産ライセンス事業が中核。
- アームの半導体設計技術は、低消費電力で高性能が特長。省電力が求められるモバイル用プロセッサ市場ではArmベースの技術が世界シェア9割。業界の標準的な存在。
- Apple、クアルコム、台湾メディアテックなどの大手スマホCPUメーカーは、ARMの設計を採用。スマートフォンやタブレット製品が売れ続ける限り、アームにはロイヤリティ収入が得られる仕組み。
- 2016年、ソフトバンクがARMを約3.3兆円で買収。イギリスのユーロ離脱が原因によるポンド大幅下落時に買収。ソフトバンクの既存事業との相乗効果はほとんどなかったが、アームが独占的な企業であり、企業価値が高い事から買収を決断。
- 2020年、コロナ原因の株価暴落で、ソフトバンクの財務が悪化。その後、ARMの売却を模索し、約4兆円でNVIDIAへの売却が進んでいたが、英国や業界からの反発により売却を断念。
主要顧客
- アップル
- クアルコム
- メディアテック(台湾)
- AMD
- Nvidia
- サムスン
また、産業/自動車向けに強いルネサス(日本)、インフィニオン(ドイツ)、STマイクロ(スイス)、NXPセミコンダクターズ(オランダ)などが手掛けるマイコンにおいても、ARMアーキテクチャが採用されていたりする。ARMの技術は、様々な半導体メーカーに使用されているのが強み。
収益構造・セグメント別の成績
部門 | ロイヤリティ収入 [全体比(%)] |
ライセンス収入 [全体比(%)] |
ソフト/サービス収入 [全体比(%)] |
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2017年 | 10.87億ドル [59.4%] |
6.18億ドル [33.8%] |
1.26億ドル [6.9%] |
2018年 | 10.98億ドル [59.8%] |
5.47億ドル [29.8%] |
1.91億ドル [10.4%] |
2019年 | 10.81億ドル [57.0%] |
5.82億ドル [30.7%] |
2.35億ドル [12.4%] |
2020年 | 12.78億ドル [64.5%] |
7.02億ドル [35.5%] |
– |
2021年 | 15.36億ドル [57.6%] |
11.29億ドル [42.4%] |
– |
2022年 | 17.83億ドル [63.3%] |
10.34億ドル [36.7%] |
– |
- 2019年まで収益が停滞ぎみだったが、2020年からは売上が増加傾向。アームの顧客が、5Gスマートフォン、5G基地局ネットワーク機器、サーバー/データセンター、自動車関連などの市場でシェアと売上を伸ばした事が要因。
- 2020年~2021年は、コロナ巣篭り需要と、その後の半導体不足により、世界中で半導体需要が急増。比例してチップ価格も上昇。それに伴ってアームのロイヤルティー収入も上昇。
アームの強み
- アームが特許/知的財産(IP)をもつ「低消費電力プロセッサ設計」は難易度が高く、他社が入り込みにくい。
- モバイルプロセッサの設計ベースでは、ARMアーキテクチャが世界シェア9割。実質的に業界の標準的な存在となり「ARMの技術をもとに開発する」という形が採用メーカー側で当然な認識になっている。
- 独占的な存在であるため利益率が良く、比例して報酬も良いので優秀なエンジニアが集まりやすい。また、優秀な人材の離職率も低い。
成長分野
今後の半導体関連の成長分野は、「5G通信」「データセンター/クラウドサーバー」「自動車」の3つ。このうち、アームは、モバイル分野で培った低消費型技術を活かし、データセンター向けや自動車向けのCPUコア製品を強化。
特に、NVIDIAやクアルコムは、ARMテクノロジーを元に、積極的にクラウド向け製品や組み込み製品を発表している。
データセンター向け設計技術発表
2022年、アームは次世代データセンター向け半導体の設計技術「ネオバースV2」を発表。インテルやAMDの牙城に入り込む。採用メーカーは、NVIDIA、Amazon、富士通、アリババ(中国)など。
インテルのファウンドリー事業と提携
米国インテルは、他社の半導体製品を受託製造する「ファウンドリービジネス」の成長を目指す。将来的にファブレス化を目指し、製造部門を分離・分社化して売却益を得たい方向性があるのかもしれない。
そのインテルは2023年4月、Armとの提携を発表し、Arm技術を採用する半導体をインテルの工場で生産できるようにすると発表。インテルはモバイル分野に弱い事から、まずは競合にならないモバイル用チップ開発メーカーの受託製造を見込む。
要は、ARMの設計を採用したスマホチップメーカーであるアップル、クアルコム、メディアテックなどの製品をインテルが受託生産し、インテルの収益性につなげたいという事。ARMにおいても自社の技術が広がっていくメリットあり。
ライバルの台頭
アームのライバルとされるのが「RISC-V(リスクファイブ)」。RISC-Vの特徴は、オープンソースで使用料が無料という事。そのため、いろいろ期待値が高い。
例として、2021年にインテルはリスクファイブの半導体設計企業の米国SiFive(サイファイブ)を20億ドル超で買収提案したという話しがある。
いろいろ期待されているリスクファイブだが、アームの並外れたエネルギー効率の高さ、ソフトウェアや技術サポート、また、定期的にリリースされるセキュリティサポートなどを考慮すると、アームがリスクファイブに代替されるような現象は限定的だろうと予想しておきたい。