SK hynixの決算(通年)の売上推移
年度 | 売上高・収益 | 営業利益 [営業利益率(%)] | 純利益・最終損益 [純利益率(%)] |
---|---|---|---|
2005年 | 5.75兆ウォン (5750億円) | 1.43兆ウォン (1430億円) [24.8%] | 1.81兆ウォン (1810億円) [31.4%] |
2006年 | 7.56兆ウォン | 1.87兆ウォン [24.7%] | 2.01兆ウォン [26.5%] |
2007年 | 8.64兆ウォン | 0.51兆ウォン [5.9%] | 0.36兆ウォン [4.1%] |
2008年 | 6.81兆ウォン | -1.92兆ウォン(赤字) [-28.1%] | -4.74兆ウォン(赤字) [-69.6%] |
2009年 | 7.90兆ウォン | 0.19兆ウォン [2.4%] | -0.33兆ウォン(赤字) [-4.1%] |
2010年 | 12.10兆ウォン | 2.97兆ウォン [24.5%] | 2.59兆ウォン [21.4%] |
2011年 | 10.39兆ウォン | 0.32兆ウォン [3.1%] | -0.05兆ウォン(赤字) [-0.5%] |
2012年 | 10.16兆ウォン | -0.22兆ウォン(赤字) [-2.1%] | -0.15兆ウォン(赤字) [-1.4%] |
2013年 | 14.16兆ウォン | 3.38兆ウォン [23.8%] | 2.87兆ウォン [20.2%] |
2014年 | 17.12兆ウォン | 5.10兆ウォン [29.8%] | 4.19兆ウォン [24.4%] |
2015年 | 18.79兆ウォン | 5.33兆ウォン [28.3%] | 4.32兆ウォン [22.9%] |
2016年 | 17.19兆ウォン | 3.27兆ウォン [18.6%] | 2.96兆ウォン [17.2%] |
2017年 | 30.10兆ウォン | 13.72兆ウォン [45.5%] | 10.64兆ウォン [35.3%] |
2018年 | 40.44兆ウォン | 20.84兆ウォン [51.5%] | 15.54兆ウォン [38.4%] |
2019年 | 26.99兆ウォン | 2.71兆ウォン [11.4%] | 2.01兆ウォン [7.4%] |
2020年 | 31.90兆ウォン | 5.13兆ウォン [15.8%] | 4.76兆ウォン [14.9%] |
2021年 | 42.99兆ウォン (4兆2990億円) | 12.41兆ウォン (1兆2410億円) [28.8%] | 9.60兆ウォン (9600億円) [22.3%] |
- 売上高のほとんどをDRAM事業が占めていたが、インテルのNAND事業を買収した事でNANDメモリでも売上高が上がっている。
- 利益率はNANDメモリよりも圧倒的にDRAM事業が高い。
- エルピーダ(日本)が倒産した後の2013年以降は、営業利益と純利益、ともに赤字なし。
- 2013年から2020年までの営業利益率の平均は22.5%。
- 2017年~2018年の異常な高利益率(45.5%~51.5%)は、5Gやクラウド事業に向けてGoogle(YouTube)、Amazon、マイクロソフト、Appleなどによるデータセンター巨額設備投資により、DRAM需要が急増したことによる。四半期レベルのピーク時のDRAM利益率は66%だったという。
- 2019年度はDRAMでは黒字だったが、NANDメモリでは大赤字だった。
- 2021年は、コロナ在宅ワーク需要で、データセンターの設備投資や、PC・家電向けのDRAM需要が高まった事により好決算。
- ハイニックスはDRAM価格の変動によって業績が大きく変化するのが特徴。
SK hynixの経営状況
年度 | 総資産 | 負債総額 | 自己資本・純資産 [自己資本比率(%)] |
---|---|---|---|
2015年 | 29.67兆ウォン | 8.29兆ウォン | 21.38兆ウォン [72.0%] |
2020年 | 71.17兆ウォン | 19.26兆ウォン | 51.91兆ウォン [72.9%] |
2021年 | 96.39兆ウォン (9兆6390億円) |
34.20兆ウォン (3兆4200億円) |
62.19兆ウォン (6兆2190億円) [64.5%] |
事業内容
- DRAM
- NANDフラッシュメモリ
- CMOSイメージセンサー
- ファウンドリー事業
メモリ市場の世界シェア
企業 | DRAMシェア | NANDシェア |
---|---|---|
サムスン(韓) | 43.5% | 35.3% |
SKハイニックス(韓) | 27.3% | 18.0% |
マイクロン(米国) | 23.8% | 10.9% |
キオクシア(日本) | – | 18.9% |
WD(米国) | – | 12.5% |
ナンヤ(台湾) | 3.0% | – |
Winbond(台湾) | 1.0% | – |
PSMC(台湾) | 0.2% | – |
DRAMが3強寡占状態となった中でSKハイニクスはDRAM3強の一角。さらにDRAMとNANDメモリの2つのメモリを手掛ける企業であり、2つの製品をもつので顧客との商談も有利に進み、それが高利益につながっている。
特にGoogleやAmazonなどのデータセンター向けのビジネスが強くなっている。
DRAMでは高利益
なんといってもSKハイニックスの収益の柱はDRAM。収益の80%がDRAMによるものと言われるだけあって、DRAM価格の変動によって業績も大きく変化。
わかりやすい例として、DRAM価格が急上昇した2018年度と、価格が急落した2019年度を比較。
年度 | 売上高 | 営業利益 | 営業利益率 |
---|---|---|---|
2018年 (好況時) |
40.44兆ウォン | 20.84兆ウォン | 51.5% |
2019年 (不況時) |
26.99兆ウォン (13.45兆ウォン減少) |
2.71兆ウォン (18.13兆ウォン減少) |
11.4% |
2019年度は2018年度と比較して、売上高が13.45兆ウォン(約1兆3450億円)減少、営業利益は18.13兆ウォン(約1兆8130億円)減少。利益が極端に増減したりするのがDRAM依存の証明。
NANDフラッシュではやや苦戦
DRAMでは好調なSKハイニックスだが、NANDフラッシュメモリにおいては他社よりも苦戦。メモリ好況期からメモリバブル崩壊までのNANDフラッシュメモリ事業の利益率が業界で最も悪い。
企業 | 2018年度 Q1営業利益率 |
2019年度 Q2営業利益率 |
---|---|---|
サムスン | 50.3% | -6.2% |
キオクシア | 47.5% | -46.2% |
WD | 37.2% | -4.3% |
SKハイニックス | 27.1% | -73.4% |
メモリ好況だった2018年の段階で他社よりも営業利益率が悪かったが、2019年のメモリ不況にはSKハイニックスが最も利益率が悪化。理由は以下。
- 他社よりも製造歩留り(良品率)が悪く利益率も低い。
- シェアが低く、スケールメリットを確立できていない。
- 利益率が高いSSDビジネスが弱い。
DRAMと比較すると、NANDメモリではあまり利益が出ておらず、四半期ベースでは赤字を出すことも多かった。なお、日本のキオクシアも2019年度に1731億円の営業赤字を出しているが、その後は利幅が良いSSDビジネスを強化するようになっている。
インテルNAND事業の買収
2020年10月、SKハイニックスは中国にあるインテルのNANDフラッシュメモリ事業の買収を発表。中国当局の承認が遅れていたが、2021年12月に承認されて買収成立に。
これにより、SKハイニックスのNANDシェアが業界2位にランクアップするのでは?と言われている。以下の画像を参考。
SKハイニックスとインテルのシェアを単純に合計すると、NANDメモリ業界でシェア20.6%となり、キオクシア(19.0%)を抜いて市場シェア2位となる。
しかし、「1+1=2」にならなかったりするのが半導体業界。メモリ業界では同業他社の統合は特に難しい。理由は以下。
- インテルとSKハイニックスのNANDメモリは、設計、製造技法、製造装置もいろいろ違う。
- インテルがやってきた製造法を今後も続けようとすると、SKのNANDとインテルのNANDの2つの開発を同時に行う必要があり、コスト増となる。スケールメリットを活かしにくい。
- インテルが使っていた製造装置とSKが使っている製造装置が違うため、両者の製造法をすべて統一しようとするとコストがかかる。
- SKハイニクスはすでに中国にDRAM工場をもっている中で、さらにインテルのNAND中国工場も抱えることに。中国依存が激しい韓国はいろいろと困難に直面する可能性があり、実際にインテル買収を中国当局が承認してあげる見返りに技術供与を約束させられているという話しが出ている。
日本の話しで言えば、NECと日立の統合で誕生したエルピーダメモリも、設計や製造技法、使用する製造装置などが違うので、初期段階は混乱が生じたが、NAND分野でも同様。
キオクシアに出資
東芝が2017年3月期に債務超過に陥り、NANDメモリ部門だけを分離して誕生したキオクシア。その出発時の出資メンバーにSKハイニックスが入っている。出資額は3950億円、キオクシア株の14.96%を握っている。
これは「将来的に買収を考えているのか?」みたいに思われているが、キオクシアにお金を出している産業革新機構と日本政策投資銀行がそれを阻止できる権利(指図権)をもっているので実質無理。
出資の理由は、キオクシアへの支配力を高める事で、キオクシアがもつ技術、知的財産を供与してもらおうというもの。特にキオクシアは次世代不揮発性メモリである「MRAM」の開発が進んでいるため、その技術の取得を考えた戦略だと思われる。
イメージセンサーにも本格参入
SKハイニックスは、CMOSイメージセンサー分野のシェア拡大を目指している。2019年に開発拠点として東京都の浜松町に日本研究所を設立し、報道によるとソニーやキヤノンのエンジニアを引き抜いて開発をすすめているとされる。
これはサムスンが1980年代から横浜や大阪に研究所を設けて技術をゲットしてきた歴史と全く同じで、「コストをかけずに技術が欲しい」「できれば技術をパクりたい」ということ。
2020年時点のSKハイニクスのイメージセンサーシェアは2%だが、ここからどこまでシェアを高めることができるのか。
現在は、不正競争防止法があるため、かつてサムスンがやってきたような派手な人材引き抜きやパクりはできない。また、この分野の特許はソニーを中心に既存上位メーカーが占有しているので、業界で地位を確立していくのはかなり難しい。
いずれにしても、SKハイニックスはサムスンと同じように日本企業のモノマネばかりしており、すでに日本企業や欧米の企業が先行している市場で勝負しようとしているため利益がでにくい。
ファウンドリーにも参入?
2021年、SKハイニックスは韓国のファウンドリー企業(半導体受託生産企業)の「キー・ファウンドリー」を5760億ウォン(576億円)で買収すると発表。
それまでのSKのファウンドリー事業は、子会社の「SK Hynix System IC」が、ディスプレードライバICやパワー半導体などを小規模に製造するレベルだったが、「韓国経済の成長のカギは半導体」ということで、ファウンドリー事業を国策で強化しようとしていた。その動きが「キー・ファウンドリー買収」というワケだが、いろいろ問題がある。
- ファウンドリービジネスに必須であるロジック半導体の設計や製造技術に関するエンジニアがSKハイニックスには極めて乏しい。
- M&A(企業買収)で技術と人材を獲得すれば良いかもしれないが、半導体企業の買収が承認されにくい状況。
- すでに既存のファウンドリー企業が顧客との信頼関係を構築している状況。そこに入り込むのは困難。
SKのファウンドリー事業は今のところ不確信であり、実際にSKもどのようにビジネスを広げていくのか定まっていない模様。
韓国企業は市場規模が大きい分野に一気に投資して一気に大儲けしようとするところがあり、それが半導体で言えばDRAMやNANDメモリ、自動車関連では車載バッテリーだったりするワケだが、そもそもビジネスはそんなに簡単に育てられるものではない。
設備投資規模
SKハイニックスは微細化や量産に向けて積極的な設備投資を行っており、2017年以降の設備投資額は、日本円で毎年1兆円以上。
DRAMとNANDの両方を手掛けるため、設備投資金額も高額となるのだが、韓国では中国勢や台湾勢の追い上げを振り切るための「超格差戦略」と言っている模様。
ハイニックスの歴史
1983年現代グループの半導体事業として発足。(日本のエンジニアが起ち上げに関与)
1998年アジア通貨危機(IMF危機)により韓国は経済破綻。
1999年LGグループの半導体事業と経営統合。
2001年経営破綻。現代グループから分離。韓国政府系金融機関からの資金援助を受け債権銀行団の管理下入り。ハイニックス半導体に社名変更。
2011年通信大手SKテレコム傘下へ。財閥SKグループ入り。資金力増強へ。
2012年SKハイニックスに社名変更。
2001年には経営破綻し、その後も財務的には不安定な状況が続いた。しかし、2011年から財閥SKグループ入りして財務力が強化。
さらに2012年にエルピーダが倒産した事でDRAM市場が3社に寡占化。高利益をだすように。現在では、業界で高額投資をしている世界有数の半導体企業となっている。
SKグループは日本由来
SKハイニックスの「SK」は韓国の財閥グループ。この財閥は日本統治時代にあった日本の繊維会社である「鮮京織物株式会社」が起源。SKとは鮮京(ソンキョン)の頭文字をとったもの。
1945年の敗戦により日本人は韓国から撤退したが、「鮮京織物」は当時の従業員だった韓国人に払下げとなる。その後、鮮京グループとして化学繊維、石油化学を手がけ、後に通信事業、携帯電話事業を手掛ける大企業となり、その後、SKに改名。
今後の成長と問題点について
SKハイニックスの将来的な成長分野は何かというと、やはりDRAMとNANDメモリの2つしかない。しかし、その2つには不安材料が多い。
- DRAM業界では新参の中国CXMTの量産によって近い将来に価格破壊が起こる可能性あり。
- 台湾ナンヤ、台湾Winbondなども300mmウエハー新工場建設、積極的にDRAM投資。ナンヤは先端DRAM、WinbondはレガシーDRAM。
- SKが中国にもつDRAM工場はSKのDRAM生産量の約半分を生産しているが、この工場において、アメリカの中国規制によりEUV露光装置(先端装置)が導入できない。
- スマホのDRAMスペックが4~6GBで頭打ち。つまりスマホ向け需要の成長停滞。成長分野がデータセンター向けしかない。
- 次世代不揮発性メモリ「MRAM」の開発が進めば、占有率が高いDRAMビジネスが大きく変化する可能性あり。
- NANDフラッシュメモリ業界においては、伸びしろがあるが、競争が激しくDRAMのような利益を出すのは難しい。
- 世界的に半導体の重要性が認識されたことで、韓国勢のライバルである日本や中国、台湾で積極的な政府支援が行われるようになっている。これは国策でやってきた韓国半導体が今まで経験しなかった事。
韓国の半導体産業は、DRAMを中心としたメモリ産業の成功体験に酔いしれているところがあるが、それはアメリカからの制裁だった日米半導体協定(1986~1996年)やバブル崩壊(1990年代初頭~)などがあった時代の成功事例。
しかし、今後は日本もメモリ産業を死守する事や、台湾や中国企業も伸びている事などにより、韓国勢は今までのような恵まれた状況が前提の飛躍は望めない。
台湾勢や中国企業の投資状況を考えると、2025年~2026年ごろからメモリシェアや利益も変化してくることになる。