東芝の半導体部門からキオクシアまでの決算(通年)の売上推移
まずはキオクシアの前身である東芝時代の半導体部門(電子デバイス部門)の決算の推移から。
なお、東芝時代はパワー半導体やシステムLSIなどのNANDフラッシュメモリ以外の半導体事業の売上も含まれていることに注意。
年度 | 売上高・収益 | 営業利益 [営業利益率(%)] |
---|---|---|
1999年 | 1兆3732億円 | -235億円(赤字) [-1.7%] |
2000年 | 1兆5513億円 | 1163億円 [7.4%] |
2001年 | 1兆748億円 | -1763億円(赤字) [-16.4%] |
2002年 | 1兆2960億円 | 305億円 [2.3%] |
2003年 | 1兆2836億円 | 1170億円 [9.1%] |
2004年 | 1兆3072億円 | 925億円 [7.0%] |
2005年 | 1兆3881億円 | 1233億円 [8.8%] |
2006年 | 1兆6573億円 | 1197億円 [7.2%] |
2007年 | 1兆7385億円 | 741億円 [4.2%] |
2008年 | 1兆3249億円 | -3232億円(赤字) [-24.3%] |
2009年 | 1兆3139億円 | -288億円(赤字) [-2.1%] |
2010年 | 1兆7578億円 | 711億円 [4.0%] |
2011年 | 1兆6162億円 | 901億円 [5.5%] |
2012年 | 1兆2802億円 | 464億円 [3.6%] |
2013年 | 1兆6873億円 | 2468億円 [14.6%] |
2014年 | 1兆7688億円 | 2166億円 [12.2%] |
2015年 | 1兆6049億円 | -1016億円(赤字) [-6.3%] |
2016年 | 1兆7002億円 | 2470億円 [14.5%] |
2017年 | 2兆64億円 | 5196億円 [25.8%] |
- 東芝は2000年にDRAMから撤退し、その後はNANDフラッシュメモリに注力。
- 2008年と2009年に赤字を出しているのは主にリーマンショックの影響。
- 2015年度の赤字はシリコンサイクルによる在庫増加の影響が大きい。
- 2017年度に高利益を出しているのは、Amazon、マイクロソフト、アップル、Google、フェイスブックなどのデータセンターが競うように設備投資を進めた事による需要急増が影響。特に5Gを見越してGoogle(YouTube)の設備投資が急増した模様。
そして、2017年に債務超過に陥った東芝からメモリ事業だけが分社化して「東芝メモリ」となり、その後に「キオクシア」が誕生。その業績が以下。
年度 | 売上高・収益 | 営業利益 [営業利益率(%)] |
純利益・最終損益 [純利益率(%)] |
---|---|---|---|
2018年 | 1兆2639億円 | 1163億円 [9.2%] |
605億円 [4.8%] |
2019年 | 9872億円 | -1731億円(赤字) [-17.6%] |
-1667億円(赤字) [-16.9%] |
2020年 | 1兆1785億円 | 66億円 [0.5%] |
-245億円(赤字) [-2.0%] |
2021年 | 1兆5265億円 | 2162億円 [14.2%] |
1059億円 [6.9%] |
- キオクシア時代になると東芝時代から売上高が激減しているが、システムLSIやパワー半導体などの部門がなくなったNANDフラッシュメモリだけの売上高となったことが要因。(繰り返し確認)
- 2019年度の赤字は、巨大データセンターをもつGoogleやAmazon、マイクロソフトなどの設備投資が一服し、在庫を抱えてしまったことが影響。また、独立費用も要因。
- 2020年度(2020年4月~2021年3月)は、コロナ影響や米国による中国制裁でファーウェイへの売上が止まったことがあったが、それでも営業利益は黒字を確保できている。これはかなりポジティブ要因。
- 2020年度の最終純損失が245億円の赤字だが、これは東芝メモリからの独立にともなうコストとされる。
KIOXIAの経営と財政状況
年度 | 総資産 | 負債総額 [有利子負債] |
自己資本・純資産 [自己資本比率(%)] |
---|---|---|---|
2020年 | 2兆7184億円 | 2兆192億円 [1兆1258億円] |
6992億円 [25.7%] |
自己資本比率は40%以上で安定、20%を下回ると財務的に危ない状況といわれるが、キオクシアは2020年3月の段階で25.7%と低い。やはり財務状況は厳しいというのが実情。
キオクシアのライバル関係にある韓国サムスンやSKハイニックス、米国マイクロンの財務状況を確認。
サムスン | SKハイニックス | マイクロン | |
---|---|---|---|
総資産 | 42.6兆円 | 9.63兆円 | 6.47兆円 |
負債総額 | 12.17兆円 | 3.42兆円 | 1.64兆円 |
自己資本・純資産 | 30.49兆円 | 6.21兆円 | 4.83兆円 |
自己資本比率 | 71.5% | 64.4% | 74.6% |
株式時価総額 (2022年4月) |
約46兆円 | 約8.2兆円 | 約8.8兆円 |
キオクシアの自己資本比率が25%程度の中、サムスンやSK、マイクロンは60%を超え。トヨタ自動車でも金融を除けば60%くらいと言われるが、兆単位の売上高をもつ企業の60%超えは超優良企業といえる。
サムスン、SK、マイクロンは近年寡占化してしまったDRAM市場で爆発的に利益を出してきた企業なので、財務状況もかなり安定している。
日本がDRAM(エルピーダメモリ)を諦めるというのは、どこかの企業が大きくなることを意味するが、大きくなったのがライバルの韓国となった形。今頃言っても仕方ないがエルピーダは売却すべきではなかった。
生産額と市場シェアの推移
キオクシアの四半期ベースの推移をサムスンやSKハイニクスなどの大手と比較。
企業 | 2020年10-12月期 売上高・収益 [市場シェア(%)] |
2021年10-12月期 売上高・収益 [市場シェア(%)] |
2022年10-12月期 売上高・収益 [市場シェア(%)] |
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1位[韓国] サムスン電子 |
46.43億ドル [32.9%] |
61.09億ドル [33.1%] |
2023年Q1に発表 (追記予定) |
2位[韓国] SKハイニックス |
28.45億ドル [20.2%] |
36.10億ドル [19.5%] |
|
3位[日本] キオクシア |
27.48億ドル [19.5%] |
35.42億ドル [19.2%] |
|
4位[米国] ウエスタンデジタル |
20.33億ドル [14.4%] |
26.19億ドル [14.2%] |
|
5位[米国] マイクロン |
15.73億ドル [11.2%] |
18.77億ドル [10.2%] |
|
その他 | 2.51億ドル [1.8%] |
7.17億ドル [3.9%] |
- SKハイニックスがインテルNAND事業を買収し、業界2位だったキオクシアは3位に降格。しかし、競争相手が1社脱落した話しなので問題なし。
- キオクシアとウエスタンデジタルは協業関係であり、すべて日本国内(三重県四日市+岩手県北上市)で生産。日本の半導体産業の生態系を維持する重要なボリュームとなっている。
- 韓国勢のサムスンとSKハイニックスは共に、NANDメモリの40%前後を中国で生産。企業レベルではなく国別で言えば、製造量で日本と韓国に大きな差はない。
キオクシアは大丈夫!
日本の半導体産業というと、かつて10社以上もあったDRAM企業がすべて消失しただけあって、どうしても悲観してしまいがち。しかし、キオクシアはかつてのDRAM企業のような失敗はしないと断言できる。
競争に負けない理由
- かつてDRAM企業は日本だけで10社以上があり、日本企業だけの競争で疲弊してしまっていた。一方、NANDメモリはキオクシアの1社だけで日本企業どうしの競争はない。
- NAND市場は5~6社の寡占で競争はやや少ない業況。投資ベースの競争で言えば、キオクシアWD連合、サムスン、SKハイニクス、マイクロン、中国YMTCの5大勢力。
- NANDフラッシュメモリはデータ社会が進むだけ安定的な需要が期待できる。つまり極端な値崩れを起こしにくく、かつてのDRAM業界にみられた巨額赤字を出してしまうような事態にはなりにくい。
- 最も力強い需要が期待できるデータセンター向けストレージが、総合的な運用コストを削減する目的でHDDからSSD(NANDメモリ)を採用するようになっていく。
- NANDフラッシュメモリは性質的に寿命があるので、データセンターでは定期的に新品との交換が必要。つまり継続的に巨大需要が期待できる。
- NANDメモリを必要とする企業は、DRAM業界のような「寡占化」→「価格が高止まり」という状況を嫌うので、財務的に弱いキオクシアを優先してくれる状況。例えばアップルやDELLがキオクシアに出資してくれているのもその理由。
- iPhoneやiPadといったアップル製品に搭載されるNANDメモリにおいてもキオクシアが第一サプライヤー。
- 中国のスマホメーカーは、ライバルのサムスンをサプライチェーンから外したい事情があり、キオクシアを優先してくれている状況。
エルピーダと比較して財務面でも大丈夫な理由
- 日本のDRAM産業は1986年から1996年までの日米半導体協定による制裁の影響をもろに受けた。一方、キオクシアはそういった制裁を意識する必要はない。
- エルピーダメモリが倒産した2012年は、当時の日銀白川方明総裁は積極的な金融政策をしなかったため、円高と株価低迷が続き、エルピーダも破綻。一方、現在の日銀はインフレ2%成長目標に向けた「金融政策ルール」が出来上がっており、今後は継続的な量的緩和によって為替市場も株式市場も安定。これによりキオクシアの経営や財務状況も少なからず恩恵を受ける。
- 倒産したエルピーダは、NEC、日立、三菱の3社を統合したことで主導権争いが生じ、混乱が続いた。一方、キオクシアはエルピーダのような混乱は起きない。
- 半導体産業の重要性が認識されるようになり、自民党内に半導体復興をかかげる「半導体戦略推進議員連盟」が発足。キオクシアと連携することに。日本政府や官民ファンドからの積極的な支援(補助金)が約束される。
- エルピーダはメインバンクをもたなかったため資金繰りが困難になった。一方、キオクシアはメインバンクをもち、経営難になっても将来性が高い事から融資を受けやすい状況。
- 2021年の銀行法改正により、銀行から融資の他に5%以上の出資も受けることができるようになった。財務問題が発生したら「メガバンク出資のもとで再建」というような事もありえる。
MRAMで逆転もアリ
キオクシアは、サムスンやSKハイニックスなどのようにDRAMビジネスを持っていない。そのため、製品ポートフォリオが弱く、大口顧客との商談も不利になる。
そんな中、キオクシアはDRAMの代わりになるMRAM(エムラム)という次世代メモリの開発を進めており、世界的にもリードしている状況。
DRAMは、データ保持のために電気を通し続ける必要があるため電力消費が高い。その欠点をカバーする存在が、次世代不揮発性メモリのMRAMで、電力消費を大幅に抑える事が可能。
MRAMは、もう少し技術開発が必要だが、いずれキオクシアにはDRAMで敗北した雪辱をMRAMで果たしてほしい。
韓国勢には負けてはいけない
NANDフラッシュメモリは東芝が開発し、韓国に供与した技術。その与えた側の日本が韓国に負ける事などあってはならない。
師匠が弟子に負けていいのは亀仙人だけ。総動員してでもキオクシアを死守してほしい。