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ニコンやキヤノンがEUV露光装置の開発を諦めた理由まとめ

半導体

露光装置
2021年時点で、最先端の微細化が求められる半導体製造には極端紫外放射技術を使うEUV露光装置(ステッパー)が必要。2000年くらいまでは露光装置シェアの大半をもっていた日本のニコンやキヤノンはEUVタイプの露光機の開発をすでに諦め、現状では先発のオランダのASMLのみが生産している状況。

ASMLは独占のEUV露光装置だけで年間6000億円くらいの売上を出しており、今後はさらに需要が見込まれているこの分野でニコンやキヤノンもEUV露光装置を開発すればいいのでは?と思うところ。

しかし、結論から言えばASMLが確立したEUV露光装置分野で他社がビジネスをやっていくことは難しい。その理由をいろいろ。

最先端半導体チップの製造は難しい

2022年時点では、半導体の微細化プロセスの最先端は4nm(ナノメートル)。2007年ごろの「インテルCore2Duoプロセッサー」が45nmなので、15年前と比較すると微細化は1/11レベルに。

そして、現在の4nmレベルはインテルは量産に成功しておらず、実現できているのは台湾TSMCとサムスンのみ。そのサムスンも良品率が非常に悪く、韓国メディアの報道では、TSMCの良品率が70%に対し、サムスンが35%。

つまり、インテルのような伝統的な製造メーカーでも絶対に量産確立できる技術レベルではなくなっている。

製造における技術難易度があまりにも高すぎるので、必然的に以下のような現象がおこる。

  • すべてにおいてその時点で最高の製造装置や素材を使う必要がある。
  • EUV露光装置を使った製造量産技術が確立するまで長い訓練と多額の開発資金が必要。それでも現在のインテルみたいに成功しないケースもある。
  • 違う製造装置を使うとなると、再び長い訓練と多額の開発資金が必要となる。

つまり、すでにオランダASMLのEUV露光装置が業界の「製造ノウハウの絶対的地位」を確立して主導権を握ってしまったので、ニコンやキヤノンがそこに入り込むのが難しいというわけ。

例えニコンがASMLと同じ性能レベルの露光装置を作ったとしても、製造メーカーは新しい装置を使いこなすための多額のコストをかけてまで採用することはない。

そのため、ニコンがEUV露光装置に参入するには、ASMLよりもはっきりと性能が高いモノを作らないといけないわけだが、それはそれで難しい。

TSMCは100万枚ウエハーで練習

微細化最先端を走る台湾TSMCは、ASML製のEUV露光装置を使いこなすためにかなりのコストをかけている。2018年には7~8台のEUVに毎月6~8万枚のウエハーを投入して量産に向けたデータを取っていたとされ、これは年間にすると100万枚レベルのウエハーとなる。

ここでASML製とは違う露光装置を使うとなると、再び大量のシリコンウエハーを投入し、練習を重ね、データをとっていかないといけないが、そんな多額のコストと時間をかけるには相当の優れた装置を開発しないといけない。だがそれはそれで難しい。

価格競争では勝てない

微細化最先端のロジック半導体の製造をしている企業は、TSMC(台湾)、サムスン(韓国)、インテル(米国)の3社。つまりEUV露光機を開発したとしても買い手が3社しかない状況。

その3社の中でダントツなのが台湾TSMCで、他社との競争は存在するが、もはや業界で実質的に価格決定権をもつ絶対的な存在。

つまり、例えニコンが同性能のEUV露光装置を開発し、価格競争を仕掛けたとしても、買い手側はTSMCが絶対的であり、そのTSMCは使い慣れているASML製を優先するため、結果的に価格競争よりも性能で勝負しないといけなくなる。そして、繰り返すが性能勝負は難しい。

そもそも、ニコンが価格競争を仕掛けても、対抗的にASMLが価格を下げれば、ニコン製の価格優位性が失われてしまう。1台も装置が売れないまま開発コストが水の泡になる事も。EUV装置の開発に踏み切るには、かなりの自信と財務力が必要だという事。

多額の開発資金がかかる

EUV露光装置の開発はかなりのコストがかかるが、それがニコンやキヤノンが撤退した大きな理由の一つ。ニコンでいえばEUV露光装置の開発から撤退した2010年代初頭はリーマンショック→ギリシア危機→東日本大震災の時期で資金難を感じていた時。

「微細化が進むほどすべてのコストが増大し採算が合わない。普及は難しい」など、いろいろ撤退理由が言われていたのだが、やはり開発資金に難しさを感じて撤退した部分が最も大きかったりする。

ニコンやキヤノンは、構成部品が何千点もある露光装置の多くの要素を自前で作っていて、さらにシェアを下がっているので生産性が悪い状況となっているが、それも開発を諦めてしまった理由。(なおASMLは多くの中核部品を外注している)

信頼関係

ニコンやキヤノンがEUV露光装置を開発してビジネスをやっていくには、TSMCやインテル、サムスンなどと信頼関係を構築して技術情報を共有し、協業する必要がある。

しかし、EUV露光装置の分野においてはオランダASMLが顧客と絶対的な協力関係を構築してしまっているので、その世界に割って入り込むのは難しい。

2012年にASMLはEUV露光装置開発のためにインテル、サムスン、TSMCから約50億ドルの出資を受け入れ資本関係を強化しているが、ASMLにはライバルのニコンやキャノンを寄せ付けないような戦略があったように思う。

特許の問題

EUV露光装置関連の知的財産(特許)はASMLが多く所有し、さらに開発を共にしてきた協力会社と特許を共有しているケースが多い状況。

つまり、ニコンがEUV露光に参入するとなるとライバルのASMLに特許料を支払う必要がある。必然的に利益が出にくい状況へ。

また、ニコンとASMLは特許侵害について訴訟合戦を繰り返している歴史があり、この歴史的な遺恨もニコンがEUV参入を難しくさせているかもしれない。

従来の分野でも勝負できる

半導体製造における露光装置といっても、「i線」「KrF」「ArFドライ」「ArF液浸」「EUV」など色々な種類がある。以下は露光装置の種類と市場規模。

露光装置の種類と出荷額シェア

半導体は微細化が求められるモノばかりではなく、従来のタイプでもそれなりに需要がある。日本勢は2000年くらいまで露光装置業界の大半のシェアをもっていただけあって、現在でも戦える商品をもっている。

ニコンやキヤノンは新参企業がほぼ無いこの分野では、従来の装置でも十分に利益を出していけると考えている模様。

ニコンの動向

EUV露光装置は極端紫外線と呼ばれる非常に短い波長13.5nmを使う技術で、ニコンは2010年代初頭にEUVの開発から撤退。

そして、ニコンは微細化技術においてはArFエキシマレーザー(波長193nm)を使った「ArF液浸(えきしん)」の露光装置で、何度も回路を露光する「マルチパターニング技術」の性能アップで勝負。また、半導体が3次元化に向かう需要も取り込みたいとしている。

ニコンが製造するArFタイプの露光装置はASMLも得意とする分野で、さらに製造メーカーはASMLとの関係を優先しやすい難しい状況ではあるが、半導体製造にはいろいろな種類の装置が必要で、さらに競争原理も必須なので、ニコンの業界シェアがすべてゼロになることはない。(と願いたい)

なお、今後急速に需要が伸びるパワー半導体やアナログ半導体の分野ではi線の露光装置が必要だが、ニコンはそのi線にも注力していくとしている。(キャノンとの競争激化)

キヤノンの動向

キヤノンは、現在の最先端であるEUVと、EUVが登場する前の微細化最先端であるArFからも撤退しているが、将来は2004年頃から開発が始まった「ナノインプリント」という従来とは製法が違う露光装置で勝負していく模様。実用化の目標は2025年。

将来的にナノインプリントの開発に成功できれば、業界一強になりつつあるASMLのシェアを部分的だが奪うことができる。

そして、キャノンは現在でも需要が多いi線(波長365nm)と、KrF(波長248nm)の露光装置の世界トップシェアの地位をさらに絶対的にしたいところ。

ASMLが成功した理由

「なぜ日本勢は露光装置でシェアを落としたのか?」よりも「なぜASMLが露光装置市場で成功したのか?」。詳しい理由を以下のサイトから要点だけを引用。
https://monoist.atmarkit.co.jp/mn/articles/1803/02/news039_2.html

簡単な言葉に変換してまとめると以下。

  • ASMLは構成部品の多くを内製ではなく外注し、「まとめ役」に集中したことが生産合理性につながっている。
  • 部品レベルではASML自身が製造者ではなく部品の購入者であったため、品質評価が客観的であった。
  • 協力会社の技術を介して多くの企業と連携した。顧客であるTSMCやサムスン、インテルなどとも連携して技術や知識が蓄積されたことが成功につながった。

顧客との関係

ニコンの顧客はインテルや東芝が中心で、特にボリュームが多いインテルの要望に合った露光機の開発にリソースを費やしていた。インテルは業界で圧倒的な力をもつので、それにのめり込んでしまったのかもしれない。

一方のASMLは顧客がインテルの他にTSMCやサムスン、SKハイニクスなど多様で、いろいろな顧客と協力関係を作ってきたことが技術の蓄積につながった。

特にTSMCは、微細化最先端の半導体だけではなくパワー半導体、アナログ半導体など、幅広い半導体製品を製造するので、多くのノウハウをもつTSMCと技術開発を共に行ってきた事が大きいのかもしれない。

自社開発か共同開発か

ニコンの露光装置はほとんどを内製化していた。中核的な構成部品でいえば、投影レンズ系、照明系、制御ステージ、ボディー、アライメント、ソフトウェアなど光源以外のほとんどを自社で開発。

一方のASMLは他社と共同開発。部品レベルでは投影レンズや照明系はカールツァイス(Zeiss)で、制御ステージはフィリップスなど多くの部品を外注し、ソフトの部分だけ自前。そして協力会社と知的財産も共有し、技術を囲い込んだ。

学術論文においてもニコンはほとんどが単独論文だったが、ASMLは協力会社との共同論文が多い。また外注先のサプライヤーだけの論文も多数。

技術力が高いニコンは他社と協業するという意識が低く、技術も利益も囲い込もうとした。それが結果的に開発スピードを低下させたり、開発コスト負担増をまねいたりした。

一方、ASMLは多くの技術を他社に依存しないといけなかった。そのため他社と信頼関係を築いて技術や利益をシェアしようとした。それが今日の成功につながっている模様。

いずれにしてもEUV露光装置の分野はASMLが業界の製造ノウハウの主導権を握ってしまったので、ニコンやキヤノンの参入は今後も期待できない。

現状では悔やまれる状況だが、いつの日かEUVとは違う技術で業界シェアがひっくり返る奇跡を信じたい。結論を言えば、2025年からの実用化を目指すキヤノンの「ナノインプリント」に賭けるしかない。

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