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中国YMTCのNANDフラッシュメモリ生産量と将来の投資目標

中国, 半導体

中国YMTC

長江メモリ・テクノロジーズ(長江存儲科技:YMTC)は、中国の清華紫光グループ傘下の半導体メーカー。創設からすぐNANDメモリ開発企業の中国XMC社を買収してメモリビジネス参入。

メモリ分野は市場規模が高く、その分野で中国は外国依存度が高いために国をあげて注力。今回はそのYMTCの生産状況や投資状況について。

独自技術で製造

YMTCのような後発企業は、知的財産(特許)の問題が付きまとう。

NANDフラッシュメモリの場合、製造技術においては微細化の進展が難しいため、メモリセルを何層も縦に積み上げる「積層化技術」が特に重要。そしてその積層化技術は既存メーカーが特許を囲っている状況。

新参のYMTCは大手他社の特許を避けるため、自社開発の「Xtacking(エクスタッキング)技術」という「ウェハを張り合わせる独自技術」でNANDメモリの製造をしているとされる。

Xtacking技術では、「メモリセル」と「CMOS回路」をそれぞれ別のウエハーで製造し、ハイブリッドボンディング技術によって貼り合わせてNANDメモリを製造。(ボンディングとは接合という意味)

ハイブリッドボンディングはCMOSイメージセンサー(SONYの得意分野)の製造などでも使われている技術。

ソニーによるとウエハー接合技術は、歩留り(良品率)を高める技術的な難しさがあり、良品率を高めるためには、熟練のノウハウが必要とされる。(ウエハー接合技術はソニーが技術流出を絶対に防ごうとしている部分)

なお、NAND大手のキオクシアやサムスンなどにおいても将来的に現在の積層化技術が難しくなっていく事が予想されるため、今後の開発ロードマップに「ウエハボンディング技術」の採用を検討しているとされる。

製造コストが高い?

新参のYMTCが独自技術を開発した事で業界では話題となったが、しかし、YMTCの製造手法は複雑で製造コストが高くなってしまい、サムスンやキオクシアなどの大手競合と比較して製造コストが50%も高くなるという見解もある。
参考:https://eetimes.itmedia.co.jp/ee/articles/2102/15/news035_2.html

技術開発の進展

2017年32層の製品用シリコンダイの設計を完了。2017年11月には32層製品を製造。サンプル出荷も開始。
2018年独自技術「Xtacking(エクスタッキング)技術」を発表。同時に64層の3D NAND技術によるフラッシュメモリの試作製造を開始。サンプル出荷も開始。
2019年64層3D NANDフラッシュメモリの量産開始。
2020年128層3D NANDフラッシュメモリ開発に成功したと発表。
2021年128層3D NANDフラッシュメモリの量産開始という報道が中国・台湾・韓国の複数メディアから出ている。
2022年192層3D NANDフラッシュメモリのサンプル出荷を開始したと報道。
2023年232層3D NANDの開発を進め、2023年に量産を目指すとされる。

業界の技術開発状況

  • キオクシア-WD連合は、2021年時点では112層NANDの量産が中心。2022年に完成する四日市第7製造棟では162層NANDの量産。
  • サムスンは、2019年から2021年は128層NAND量産が中心。2022年後半から2023年にかけて236層NANDの量産を目指すと報道。
  • SKハイニクスは、2021年時点は128層~176層の量産が中心。2022年夏に238層NANDを開発、2023年からの量産予定と報道。
  • マイクロンは、2020年に176層NANDフラッシュを開発し2021年から量産。さらに2022年末から232層NANDを製造開始すると報道。

生産状況

YMTCのNANDフラッシュメモリの生産能力は、2020年末時点で月産5万枚ウエハー程度。

そして報道では、2021年後半までに2倍の月産10万枚にまで増やす見込み。世界全体の生産能力が約160万枚とされるので、ウエハーレベルでは約7%程度に相当。

各メーカーの月間生産能力

  • YMTCが2021年後半までに月産10万枚。
  • サムスンが月産約60万枚。そのうち中国の西安工場が月産25万枚。(2022年時点では全体の42%が中国生産)。付加価値が高いデータセンター向けSSDシェアが高いので収益性や利益率でもトップ。
  • キオクシアとWD連合が月産約60万枚以上。(三重県四日市+岩手県北上市)。2022年秋から四日市第7新製造棟で量産開始。北上市第2新製造棟は2023年竣工。
  • SKハイニクスが月産約25万枚以上。(2022年度から中国のインテルNAND工場が加わる)
  • マイクロンが月産約18万枚。(新工場建設にそこまで積極的ではなく、規模よりも生産率を高めようとする戦略)

生産額と世界シェア

YMTCは、NANDフラッシュメモリ市場でどのくらいのシェアを獲得しているのか。各メーカーの四半期ベースの業績推移。

NANDフラッシュメーカーの四半期ベースの売上高と業界シェア推移
企業 2020年10-12月期
売上高・収益
[市場シェア(%)]
2021年10-12月期
売上高・収益
[市場シェア(%)]
2022年10-12月期
売上高・収益
[市場シェア(%)]
1位[韓国]
サムスン電子
46.44億ドル
[32.9%]
61.10億ドル
[33.1%]
2023年Q1に発表
(追記予定)
2位[韓国]
SKハイニックス
28.46億ドル
[20.2%]
36.11億ドル
[19.5%]
3位[日本]
キオクシア
27.49億ドル
[19.5%]
35.43億ドル
[19.2%]
4位[米国]
ウエスタンデジタル
20.34億ドル
[14.4%]
26.20億ドル
[14.2%]
5位[米国]
マイクロン
15.74億ドル
[11.2%]
18.78億ドル
[10.2%]
その他 2.50億ドル
[1.8%]
7.18億ドル
[3.9%]
出所:トレンドフォース。市場シェアは金額ベースで算出。SKハイニックスは買収したインテルNAND事業と合計した数字。
  • YMTCは現段階では「その他」に含まれる。
  • 2020年10-12月期では、市場における存在感が低く「その他:1.8%」レベル。
  • しかし、2021年10-12月期になると「その他:3.9%」となり、確実にシェアが上がってきていると推測できる。

良品率(歩留り)

2020年~2021年上半期まで128層NANDメモリの良品率が上がらず、歩留りは平均して約30〜40%台だったとされる。YMTCの製造手法は難しいやり方であるため、良品率に問題を抱えている模様。

しかし、最近は歩留りが上がってきている模様で、量産ピッチも上がっているのだという。

中国製品の普及と信頼獲得のために、中国政府の手厚い支援のもとで物量攻勢をしかけてくる可能性があり、それが脅威。

将来の設備投資と工場建設状況

現在、YMTCは月産10万枚ウエハーの製造能力をもつ工場を1棟もつが、2021年から2022年にかけてその工場いっぱいに製造装置を導入し、フル稼働させていく予定。

そして2020年に2棟目の工場を建設を発表している。2棟目のファブを作るということは量産がそれなりに波に乗っているということ。

中国は誇張が多く、はっきりとした情報が得られにくいのだが、2棟目のファブ建設というのはYMTCの製造状況がある程度予測できるニュースだったため業界では話題に。

そして将来的に工場を3棟建設し月産能力で30万枚レベルの工場を作る予定。この30万枚とは2019年の世界のNANDメモリ製造能力の約2割に相当。しかし、中国にしては目標設定が低い。それはなぜか。

  • NANDフラッシュメモリ業界は競争が激しく利益が出にくい。
  • 知的財産(特許)の問題。
  • 製造装置や素材のほとんどがアメリカや日本製。
  • さらに半導体の製造は雇用を生まない。
  • 米中対立の問題。

つまり、NANDメモリの生産量を増やしても中国の利益になりにくいので30万枚という低い目標設定となっていると思われる。

顧客

YMTCの販売先顧客は、パソコン世界大手のレノボ・グループなどの中国企業が中心とされる。

将来的にはスマホメーカーのシャオミ、OPPO、VIVOなどや、巨大データセンターをもつアリババ、テンセント、バイドゥ、ファーウェイなどへ納品量を増やしたいところ。

中国には、メモリを大量に必要とする企業が多いのが強み。また、海外企業への納品はほぼない状況。現在はまだ信頼性や安定的な生産量が確立できていないから仕方ない。

アップルのサプライヤー入り

長江メモリは、アップルの主要サプライヤー入りを一つの目標としている。やはり、品質要求が厳しいアップルへ納品実績があれば、業界で信頼が得られるとの考えから、アップルへの熱心な営業をかけている模様。

2022年2月頃に、キオクシアの工場が不純物素材の問題で一部の生産が止まったが、この時にアップルは供給不安の問題によりYMTCのNANDメモリを一部採用したと報道されたが、真実は不明。

なお、アップルは米中対立の問題により、中国依存を減らそうとしており、iPhoneやiPad、ノートパソコンを受託製造する台湾のホンハイやペガトロン、ウィストロンなどのEMS企業に中国以外への工場移転を求めていたりする。

SSDビジネス

NANDフラッシュメモリ分野で高い利益率を求めるなら付加価値が高いSSDビジネスが重要。

2020年9月にYMTCは、独自の「Xtacking技術」を採用したSSD製品を展開していくと発表。ブランド名は「ZHITAI(致鈦)」。

最初は一般消費者向けとして販売。将来的にデータセンター向けにも広く展開していく見込み。

なお、重要なSSD内臓のコントローラー(ロジック半導体の分野)は2022年時点では台湾のPhison Electronics(ファイソン・エレクトロニクス)とされる。また、独自開発しているという話しもある。

SKハイニックスから技術供与?

2020年にSKハイニックスが米国インテルのNANDメモリ事業を買収すると発表。その後、中国当局の審査がかなり遅れ、最終的には承認されたが、一部報道によると中国政府から買収を承認する見返りとして、中国企業への「技術供与」が条件となっているとされる。

その報道が真実ならば、今後は部分的な協力関係を築いていくのかもしれない。また、この話しはNANDフラッシュの話しだけではなく、SKハイニックスが手掛けるDRAMの技術提供を求められているのかもしれない。(中国にはCXMTというDRAM企業がある)

SKハイニックスは、「DRAM」と「NANDメモリ」の2つとも中国に工場があるため、中国政府の要望を無視することが難しい状況にある。どうなることやら。

製造装置の取引先

製造装置の調達先は、ASML、アプライド・マテリアルズ(アメリカ)、東京エレクトロン(日本)、ラムリサーチ(アメリカ)、SCREEN(日本)、KLAテンコール(アメリカ)、アドバンテスト(日本)など、有名どころが中心。

中国メーカーでは、ドライエッチング装置ではChina Microelectronics(AMEC)、洗浄装置ではShengmei Semiconductor(ACMR)などもサプライヤーとしてあげられているが、どれくらいの地位を確立しているかは不明。

NANDフラッシュメモリは、積層化が進むほど「エッチング工程」が重要で、そのドライエッチング装置は市場規模がかなり大きいため、中国は輸入に頼るよりもできるだけ早く完全国産化を急いでいると思われる。

中国政府から国内産の製造装置を優先するように指示されているようだが、今のところ中国産は限定的。

親会社が破綻

実はYMTCの親会社である清華紫光グループは、主に不動産関連や無理な企業買収が影響して2021年7月に破産宣告している。負債総額は約310億ドル(約3兆円以上)ほど。

親会社が債務不履行を起こすレベルなので、傘下のYMTCも影響を少なからず資金調達が困難になると思うが、やはりそこは中国。将来有望なハイテク企業なので、中国政府の国費が投入されるだろうというのが業界コンセンサス。

日本経済新聞の有料記事に「複数の関係者によればYMTCは親会社である紫光集団の財政問題の影響を受けない」という記事が載っていたが、つまり政府支援があるという事。

アメリカ政府がインテルやマイクロンなどの製造メーカーに多額の補助金を入れている状況なのに、中国政府が自国のハイテク企業に補助金を入れないワケがない。

問題点

  • 中国には半導体メモリに関する知的財産、英知、エンジニアが乏しい。
  • キオクシアやサムスンなどのライバル他社の特許を完全に避けてメモリビジネスを続けることは難しい。
  • ウエハ張り合わせ独自技術が複雑で、製造コストを下げることが難しい。
  • 中国政府資金に支えられた状況で安売り攻勢による価格破壊を起こせば、アメリカから制裁を受ける可能性あり。
  • NANDフラッシュの需要はデータセンター向けが高い比重を占めるが、世界のデータセンター市場はAmazonやマイクロソフト、Googleなどのアメリカ企業が支配している状況。つまり、米中対立の問題でアメリカ企業からの信頼を勝ち取れないかもしれない。

アメリカに敵視される半導体グループ

情報通信産業を死守したいアメリカは、巨大化する中国の情報産業の飛躍を抑えたい事情がある。そのアメリカでは、国会内で「YMTCを制裁すべき」という議論がちらほら出ている。

YMTC(長江メモリ)は半導体を中核とした清華紫光グループという国策大学企業の傘下企業であり、アメリカは大きな存在になる前にグループ会社ごと飛躍を削ぎたい事情がある。

YMTCや紫光グループがどういう企業なのか、大まかな資本関係について画像を作ってみた。

清華紫光グループとYMTCの出資と資本関係

  • 清華紫光グループは、中国の名門大学である清華大学が51%を出資する持ち株会社。
  • 清華大学は習近平主席や胡錦濤(こきんとう)の出身大学で、中国政府との関わりも強固。
  • 2016年7月に創設されたYMTCは、清華紫光グループを中心に、中国政府系ファンド(国家集積回路産業基金)、湖北省政府系ファンド(湖北集積回路産業基金)、武漢市政府などの共同出資により誕生。実際には説明しにくいかなり複雑な出資構造。
  • 清華紫光グループの傘下企業には、YMTCの他にも半導体設計企業の「紫光展鋭」や、ITサービスの「紫光股份」など複数のハイテク企業をもつ。

清華紫光集団が米国から脅威とされる理由まとめ

  • 多くの中国政府系資金が入り込んでいて「利権」となっている事。
  • 多額費用がかかる半導体産業において、資金的に成長する条件が整っている事。
  • 優秀な学生が集まる「大学企業」であり、グループ内で半導体関連の英知が育まれていく土台ができている事。
  • 半導体ファブレス企業の「紫光展鋭」なども脅威である事。

アメリカは、とにかく中国の情報通信産業を潰したい。

メモリ企業への制裁はあるか

アメリカによる中国半導体への制裁は以下。

  • ファーウェイ制裁。5G関連とスマホ制裁。
  • SMIC(半導体製造ファウンドリー)へEUV露光装置(最先端製造装置)の輸出規制。
  • 中国本土へのEUV露光装置の輸出規制。(中国に工場をもつ外資系会社も対象)
  • JHICC(中国DRAM企業)制裁。(しかし、これは技術盗用の問題による制裁)

この中で強硬的だった制裁は「ファーウェイ制裁」と「SMICへのEUV露光装置の輸出規制」の2つ。一方、成長しているNANDメモリ企業のYMTCや、DRAM企業のCXMTは制裁を受けていない。

現状を考えると、アメリカはサーバーCPUや5Gチップなどの最先端ロジック半導体分野は絶対に死守したいが、半導体メモリにおいてはそこまで問題視していない模様。

「情報処理の中核がロジック半導体であり、メモリはデータ保存にすぎない」というのがアメリカの結論という事か。

しかし、メモリ分野でもその存在感が大きくなりすぎるとアメリカも黙っていないとは予想できる。動くのであれば日本に損失がない方法でお願いしたい。

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