2020年の後半から2021年にかけて、世界的に半導体不足が起こっている。半導体といってもいろいろ種類があるが、現在不足している半導体は主に、
- 自動車向けの一部の半導体
- 高性能チップ。ハイエンドCPUやGPU。
特に話題になっているのは、半導体不足によって世界中の自動車メーカーの生産量が低下している事。自動車産業は市場規模や雇用のレベルがあまりにも大きいので、どうしても問題になる。
そして、PC向けやスマホ向け、ゲーム機向けのハイエンドCPUも生産低下しているという。それによってPS5やXboxなどの次世代ゲーム機も目標より製造が遅れている模様。
PS5の不足で喜ぶのは転売業者だけなのだが、いったい何が原因なのだろうか。
いろいろ調べてみるとPS5の供給不足の原因が屋根業者による工場火災が影響しているようだ。
画像は雰囲気的なイメージ。
工場火災によって生産量低下
PS5に搭載されるハイエンド半導体を製造するTSMC(台湾)の発表によると、PS5向けチップの生産不足は半導体パッケージ用の絶縁材料に使われるABF(Ajinomoto Build-Up Film:味の素ビルドアップフィルム)という素材の不足が原因だという。
以下はそのABFの画像。
そして、ABF不足はその材料を作る工場の火災が原因となっている。まず、問題のABFは以下のプロセスで製造される。
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日立化成がガラスクロスを使用して銅張積層板を製造し、味の素に供給。
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味の素がABF(味の素ビルドアップフィルム)という絶縁フィルムを製造。
つまり、日東紡、日立化成、味の素など、複数の会社が関与して製造されるのだが、悲惨な事に、日東紡の「低CTE特性ガラスクロス」を生産する福島市第二工場が火災。(2020年7月20日)
「低CTE特性ガラスクロス」の供給が滞っているため、ABFの生産も滞り、最終的にTSMCも高性能CPUを想定通りの数を製造することができず、結果としてPS5の出荷も低下しているというわけ。
ただし、PS5の生産量がゼロになるようなレベルではなく、生産量が低下している状況だという。
なぜ工場火災が起こったのか?
日東紡の福島工場に、なぜ火災が発生したのか。
消防の調査によると、屋根の補修業者の工事中に火花が飛び、可燃物に引火したことが原因だとされている。
生産設備は延焼しなかったものの、設備の一部が被水したことで対応に追われているのだという。
火花が飛んで燃える。そんな可燃性が高いものがなぜ近くにあったのだろうか。そして、工場が止まってしまうレベルに燃え広がってしまうような可燃物がなぜ大量にあったのだろうか。
産業スパイがガソリンか何かをまいて作業していたのでは?と疑ってしまうような不思議な事件。
米中貿易戦争で世界の半導体生産が止まってしまうというのならば理解できるが、日本の屋根補修業者のミスが原因で世界の半導体製造が止まってしまうというのはなんか納得できない。
日本企業はコアな製品を作っている
今回の件で明らかになったことは、日本企業は他社がマネできないようなコアな製品を独占的に作っているという事。
他の会社が代わりとなる製品を作っていたら問題ないのだが、独占しているので一つの工場に問題が発生しただけで、多くのモノづくりが低下してしまう。技術を独占してしまうことの問題点といえる。
こういった供給不足に陥ると、供給を安定化させるために顧客からセカンドソースを求められることが多くなる。
例えば、TSMC、マイクロソフト、クアルコム、アップルなどが味の素に対して、「ABFを他社に技術供与して安定供給につなげてほしい」みたいに、要求してくる可能性があるのだ。
しかし、実際にそういう話しがあったとしても味の素は必ず断るとは思う。
味の素がABFを誕生させるまで
味の素の素材事業は、うま味調味料といわれるグルタミン酸ナトリウム(アミノ酸の一種)の研究のひとつとして、1960年代にエポキシ樹脂の硬化剤を開発したことから始まっている。
その後、長年蓄積した樹脂配合技術により高機能絶縁材料の開発を進め、1998年には、それまで困難といわれていた液状樹脂のフィルム化に世界で初めて成功。その年にABF(Ajinomoto Build-Up Film)を発売。
現在では、生産性や機能性の高さにより半導体パッケージ用の絶縁材料として絶対的な地位を確立。
顧客は高性能チップを製造しているTSMC、インテル、サムスンなど。いろいろ調べてみると味の素はインテル向けにアメリカにも拠点をもっている模様。
DRAMも供給不安に
PS5にはDRAMも搭載されているのだが、そのDRAMも供給不安によって価格が急上昇しているとの事。2019年比でいえば、DRAM価格は全体的に1.5~2倍くらいになっている。
これは、世界的な半導体不足に危機感を感じたメーカーが、半導体の在庫を増やそうとしており、その一つにDRAMを確保しようとする動きがあるという。
また、2020年12月3日にマイクロン(アメリカ)の台湾工場の停電が原因で工場ストップしたことにより、DRAM供給に不安を感じた顧客が在庫を確保しようとする動きが影響しているようだ。
パニックバイでDRAM急上昇という事。DRAMは日本のエルピーダも撤退し、韓国勢が売上を牛耳っている分野なので、早く供給不安は消失してほしいところ。