Texas Instrumentsの決算(通年)の売上推移
年度 | 売上高・収益 | 営業利益 [営業利益率(%)] | 純利益・最終損益 [純利益率(%)] |
---|---|---|---|
2009年 | 104.27億ドル | 19.91億ドル [19.1%] | 14.56億ドル [14.1%] |
2010年 | 139.66億ドル | 45.14億ドル [32.3%] | 31.48億ドル [22.5%] |
2011年 | 137.35億ドル | 29.92億ドル [21.7%] | 22.01億ドル [16.0%] |
2012年 | 128.25億ドル | 19.73億ドル [15.3%] | 17.28億ドル [13.5%] |
2013年 | 122.05億ドル | 28.32億ドル [23.1%] | 21.25億ドル [17.4%] |
2014年 | 130.45億ドル | 39.47億ドル [30.2%] | 27.77億ドル [21.3%] |
2015年 | 130.00億ドル | 43.22億ドル [33.2%] | 29.86億ドル [22.9%] |
2016年 | 133.70億ドル | 48.55億ドル [36.3%] | 35.95億ドル [26.9%] |
2017年 | 149.61億ドル | 60.83億ドル [41.1%] | 36.48億ドル [24.3%] |
2018年 | 157.84億ドル | 67.13億ドル [42.5%] | 55.37億ドル [35.1%] |
2019年 | 143.83億ドル | 57.23億ドル [39.8%] | 49.85億ドル [34.7%] |
2020年 | 144.61億ドル | 58.94億ドル [40.7%] | 55.68億ドル [38.5%] |
2021年 | 183.44億ドル | 89.60億ドル [48.8%] | 77.36億ドル [42.1%] |
- 2009年から2021年までの営業利益率の平均が32.6%。半導体業界トップレベル。
- 2013年以降は利益率が40%を超えるようになっているが、2012年に買収したナショナル・セミコンダクターとの相乗効果が大きいとされる。
- アナログ半導体分野で、豊富な製品ポートフォリオをもっているので、顧客とのビジネスも有利に進む。それが高利益率の理由の一つ。
- このデータにはないが、選択と集中が進んでいなかった2000年頃までは営業利益率が10%未満だった年が多く、赤字を出すこともあった。
Texas Instrumentsの経営状況
年度 | 総資産 | 負債総額 | 自己資本・純資産 [自己資本比率(%)] |
---|---|---|---|
2010年 | 134.01億ドル | 29.64億ドル | 104.37億ドル [77.9%] |
2015年 | 162.30億ドル | 62.84億ドル | 99.46億ドル [61.3%] |
2020年 | 193.51億ドル | 101.64億ドル | 91.87億ドル [47.5%] |
2021年 | 246.76億ドル | 113.43億ドル | 133.33億ドル [54.0%] |
株主還元がとてつもないので、爆発的な利益を出し続けているわりに、あまりお金が会社に残らない。アップルと同じ。
会社の概要
多くの電子製品にはアナログ半導体が搭載されているが、テキサス・インスツルメンツは多品種なアナログ分野でほとんどの領域をカバーしており、業界では絶対的な地位をもっている。
それまでの歴史や現在のポジションについて。
- 1950年に世界初のシリコン型トランジスタを製品化。「老舗企業」といわれる理由の一つ。
- 世界14か所に工場をもつ。
- 300mmウエハー工場は14工場のうち2工場。2工場ともテキサス州。
- 日本では1960年代から営業拠点をもち、生産工場もあり。福島県(会津若松市)と茨城県(美浦村)に200mmファブをもっている。(日本企業の工場を買収して運営している形)
- 自社工場で製造する半導体のうち80%がアナログ半導体。
- 全体の売上構成は、アナログ製品が70%、残りの約30%がMCUなどの組み込みプロセシング製品。
- TIの製品全体の80%が自社工場生産。残りの20%がTSMCなどのファウンドリーへ製造委託。
上記はすべて2022年時点のデータ。
1990年代までは総合半導体メーカー
テキサス・インスツルメンツは、1990年代までは、ロジック半導体、メモリ半導体(DRAM)、アナログ半導体など、いろいろな半導体製品を扱う総合半導体メーカーだった。
しかし、それまで営業利益率が10%に満たない年が多く、しかも営業利益率の変動が非常に激しかった。営業赤字を記録した年もある。
特に、それまで行っていたDRAM事業における特有のシリコンサイクルによって経営状況が極端に悪化することがあった。(シリコンサイクルとは需要と供給のバランスが定期的に崩れる現象)
そして、改革に着手していく。
選択と集中
利益が不安定化していたテキサス・インスツルメンツは「選択と集中」に着手。まずは定期的に大きく損失を出すことがあったDRAM事業を売却するところから始まっている。
2005年液晶ドライバIC事業を売却。
2006年センサー事業売却。また制御機器向け事業を売却。
2007年DSL CPE(デジタル加入者線宅内装置)事業をドイツのインフィニオン・テクノロジーズに売却。
2010年ケーブルモデム事業を米国インテルに売却。
DRAMをマイクロンに売却した段階で、かなり経営状況が安定するようになったようだが、他にもいろいろと事業を手放していく。そして、特化したのはアナログ半導体。
選択と集中をすすめた以降の2002年ごろから、営業利益率がしだいに上昇していく。かつては営業利益率が不安定だったが、次第に安定的になっていき、2005年~2010年には営業利益率が20%前後へと安定化していく。
同業他社の買収
2011年、テキサス・インスツルメンツは同業アナログ半導体大手のNational Semiconductor(ナショナル・セミコンダクター)を買収。この買収により生産量と製品ラインナップが拡充。アナログ半導体でダントツの存在に。
多くの電子製品には、いろいろな品種のアナログ半導体が必要となるが、古くからの信頼と豊富な製品ラインナップ、そしてダントツの供給力により、テキサスがビジネスを有利に進めることができる。
その結果、2012年以降は営業利益率が30%を超えるようになっている。以下は1995年と2015年のアナログ半導体市場の比較。
1995年には業界5位だったテキサスは、選択と集中による数々の買収により2015年にはダントツトップに躍進。
アナログ半導体とは?
そもそもアナログ半導体とは何か?
説明は難しいが、デジタルではないアナログ信号、具体的にいうと、温度、力の大きさ、光の量や色、音量、音質といった信号を処理・制御するのがアナログ半導体。
例えば、スマホのタッチパネル機能においては、触れる強さやスライドのスピードを判断するためにアナログ半導体は不可欠となる。
世の中はアナログだらけ。そもそも人間がアナログなので、その人間と電子機器を結びつける製品をつくろうとするとアナログICが必要になる事が多い。
2021年のアナログICの出荷個数は2051億個。DRAMが220億個なのでDRAMの10倍の市場。それだけ需要が多い重要な存在という事。
2020年の世界シェア
以下はアナログ半導体の2020年の世界シェア。
テキサスインスツルメンツのアナログ半導体市場シェアは19%。なお、日本企業はルネサス・エレクトロニクスが世界シェア2%で10位に入っている。
アナログIC業界は、設備投資に必要なコストが最先端ロジックやメモリ製品などのような高額になる事はなく、製品も多品種なので、小規模でビジネスを続けることができる。
そのため、多くの企業でシェアを分け合っているような状況となっている。そして、上位10位はアメリカやヨーロッパ、日本などの先進国の半導体メーカーばかりが並んでいることがわかる。
韓国勢や台湾勢は入り込めていないのは、アナログ分野は難しく、技術が蓄積されるまで時間がかかるため。そして、伝統的なメーカーが乱立しているため、参入しても利益がでない。
絶対的な理由
アナログ製品は多品種であるため急成長が難しい。例えば、サムスンは1980年代初頭にDRAMに参入し、約10年後の1992年にDRAMトップシェアになったが、アナログ製品はDRAMのように規格化された製品を一気に量産すれば良いビジネスではない。
そして、アナログ分野はデジタル半導体のような「0」と「1」だけの世界ではなく、「あいまい」な世界だったりする。そのため、回路設計においても難しさがつきまとう。優秀な人材も短期間では育たない。
そのアナログ分野で、テキサス・インスツルメンツが評価される理由は以下。
- アナログIC分野において長い技術開発の歴史をもつ。
- 優秀なエンジニアが長い歳月をかけてつくりあげてきた英知が製品に刻まれている。
- 多くの企業はテキサスと長く取引をしており、慣性的に製品を使い続けている。
- 電子企業はテキサスの製品に信頼を持っているので、他のアナログ製品が必要となれば「次もテキサスに」となる。
- テキサスも製品ラインナップが幅広いので、顧客が必要な製品を用意できる。
ライバルはADI
テキサス・インスツルメンツの最大のライバルは米国Analog Devices(ADI:アナログ・デバイセズ)。
ADIは、2016年にLinear Technology(リニア・テクノロジー)を買収。さらに2020年に同業のMaxim Integrated Products(マキシム・インテグレーテッド・プロダクツ)を買収し、業界トップのテキサスを追う形。
テキサスに負けないレベルの非常に強い製品ラインナップをもち利益率も高い。
車載向けマイコンも強い
自動車にはマイクロコントローラー(マイコン)が必要となるが、その分野でもテキサス・インスツルメンツは約10%ほどのシェアをもっている。以下は2020年のデータ。
1位ルネサス(日本) 26.7%
2位NXPセミコンダクターズ(オランダ) 26.3%
3位インフィニオン(ドイツ) 16.9%
4位テキサス・インスツルメンツ(アメリカ) 9.8%
5位マイクロチップ・テクノロジー(アメリカ) 6.9%
マイコン分野は日本のルネサスが業界トップ。顧客はトヨタ、ホンダ、日産などの日系メーカーが中心。
日本のアナログ半導体は再編が加速
日本企業の中にはアナログ半導体事業をもっている会社が多いが、スケールメリットが必要なハイテク業界では必然的に再編や事業強化が進んでいる模様。
- 2021年1月、日清紡HDは連結子会社の新日本無線とリコー電子デバイスの2社を統合すると発表。新社名は「日清紡マイクロデバイス」
- ジャパンセミコンダクター(東芝グループ)は、車載向けを中心にアナログ製品を強化中。また、月産能力10万枚の生産ラインで製造受託ビジネスも拡大していく模様。
- ルネサスも車載向けアナログデバイスを強化中。アナログ製品に強い欧米企業を次々と買収。
- 2019年、ミネベアミツミはエイブリック(SEIKOの子会社)を完全子会社化。
- 2016年、トレックス・セミコンダクターはフェニテックセミコンダクターを完全子会社化。車載向けに強いファブレスメーカーが工場所有することに。
日本企業のアナログ半導体の売上高をすべて合わせると、世界シェア10%を持っているとされる。上手く再編・統合して世界シェア上位を狙える企業の登場を期待したい。