海外メーカー資本比率が激減した2023年の日本の自動車メーカー業界いろいろ
これにより「海外自動車メーカー傘下」と言える日系自動車メーカーは完全に消失する事に。
バブル崩壊期以降、外国メーカーからの資本参加が多発し、日産やマツダなど経営権を握られていたメーカーもあったが、それと比較すると奇跡的な現象。
この事があまりニュースになっていないのは、製造業の花形産業である自動車産業が、あまりにも上手くいっているためなのか。
国際世論に対して「上手くいってないアピール」はできるが「一人勝ちアピール」はしにくいもの。そういう事にしておきたい。
海外の自動車メーカーの資本が「見直された」&「消失した」日本メーカー
日産自動車
1999年3月、経営難だった日産は、ルノー(フランス)と資本提携。ルノーは日産株36.8%を取得。
2001年ルノーは日産への出資比率44.4%へ引き上げ。以降、日産はルノー傘下のアライアンスが続く。
2018年11月、日産CEOカルロス・ゴーン逮捕。それまでルノー側からの経営統合の話しが出ていたが、日本政府による対抗措置のような形となった。
2023年2月、ルノーと日産の資本見直しの合意を発表。ルノーは保有する日産株43.4%を15%に引き下げ、互いに15%ずつを対等出資するアライアンス状態へ。
2023年7月、ルノーのEV新会社「アンペア」に対し、日産単独で最大6億ユーロ、三菱と合わせて最大8億ユーロを出資すると発表。
2023年11月、ルノーと日産の資本見直し合意が正式完了。ルノーは日産に対する経営支配権を失う形が正式となる。
三菱自動車
2016年5月、日産と資本提携により、日産は三菱自動車の株式34%を取得。三菱は日産傘下となり、実質的にルノー傘下のような形となった。
2023年11月、日産とルノーの資本関係見直し合意完了。それによって同時に日産傘下の三菱自動車においてもルノーの経営介入がなくなった。
スズキ
1981年スズキと米国ゼネラルモーターズ(GM)は資本・業務提携を発表。
2008年GMの経営不振により資本提携を解消。
2009年独フォルクスワーゲンと技術獲得を目的に資本提携。VWがスズキ株19.8%を取得。
2011年スズキはフォルクスワーゲンの技術に接触する事ができず提携解消を発表。国際仲裁裁判所のもとで2015年に資本提携解消が決着。
2017年スズキはトヨタと資本提携により、トヨタがスズキ株4.9%保有し、スズキはトヨタ株0.2%保有。
マツダ
1979年米国フォードはマツダに24.5%出資。
1996年フォードは経営難だったマツダの出資比率を33.4%(1/3超)に引き上げ。マツダはフォード傘下に。
2006年フォードの経営が悪化するようになり、マツダ株を段階的に売却していく。
2015年結局、フォードはマツダ株を全て売却し、資本提携を解消。
2017年トヨタとマツダの資本提携。トヨタはマツダ株5.05%を取得し、 マツダはトヨタ株の0.25%を取得。
スバル(旧・富士重工業)
1999年富士重工業(現スバル)と米国ゼネラルモーターズ(GM)との資本提携により、GMは富士重工業の株式20%取得。
2005年GMの経営悪化によりGMと富士重工業の資本提携は解消。
2005年GMとの関係が切れた富士重工業は、すぐトヨタと資本提携。トヨタはGMが手放したスバル株のうち8.7%を取得。
2008年トヨタはスバルの株式比率を8.7%→16.4%へ引き上げ。提携関係を強化。
2019年トヨタが持つスバルの株式比率を20%に引き上げ。持ち分法適用会社へ。
UDトラックス(旧・日産ディーゼル)
2007年日産ディーゼルはボルボグループの完全子会社へ。その後「UDトラックス」へ社名変更を発表。
2019年12月、いすゞ自動車が、ボルボ・グループ傘下のUDトラックスを2430億円で買収。外資から日本資本に復活。なお、UDトラックスのトラック販売台数は2万台レベルと少ない。
日野自動車と三菱ふそうの統合会社だけ少し例外
すべての日系自動車メーカーが日本資本に回帰している中で、唯一、違う動きがあるのが日野と三菱ふそう。
以下の画像のような形となる。
- この動向は、2022年3月に日野自動車のエンジン不正が発覚した事がきっかけ。
- トヨタ、ダイムラー共に出資比率は同等とはいえ、世界的な規模があるダイムラーに経営判断の優位性があるように思えてしまう。
- トヨタの判断としては、日野自動車が乗用車中心のトヨタ傘下でやっていくよりも、トラック業界の三菱ふそう/ダイムラーと組んだ方がスケールメリットを活かせると判断。トヨタとダイムラー共に、スケールメリットと業界の寡占化(競争低下)を望んでいた。
- 新持株会社の設立により、日野自動車はトヨタ自動車の連結子会社から外れる事になるが、一般的な乗用車とトラック・バスは、販売顧客、部品/サプライチェーン網、製造形態、車両メンテナンスなど多くに違いがあり、例えトヨタと日野自動車の関係が離れる事になっても、両社ともあまり悪影響はない。
両社の2022年度の成績
メーカー | 売上高・収益 [販売台数] |
営業利益 [営業利益率(%)] |
---|---|---|
日野自動車 | 1兆5073億円 [14.4万台] |
174億円 [1.2%] |
三菱ふそう | 6993億円 [2.9万台] |
171億円 [2.4%] |
- 両社の売上高を合計すると2兆2066億円、販売台数の合計は17.3万台。規模はあまり大きくない。
- 日野や三菱ふそうの営業利益率は、世界のトラック業界の中でも低い。
日野自動車と三菱ふそう両社の資本提携関係の歴史
1966年トヨタ自動車と日野自動車の提携関係誕生。
2001年トヨタ自動車は日野自動車の株式50.1%を取得。トヨタの子会社へ。
2003年三菱自動車からバス・トラック部門が分社化し「三菱ふそうトラック・バス」の誕生。株主比率は、ダイムラー・クライスラー社が43%、三菱自動車が42%、三菱グループ各社が15%。
2005年ダイムラー・トラック社は三菱ふそうトラック・バスの株式85%を取得。その後89.2%まで引き上げ。
2023年5月、トヨタ自動車とダイムラートラック社の同等出資で設立された持株会社のもとで、日野自動車と三菱ふそうトラック・バスの経営統合を発表。
トヨタを中心にスケールメリットが広がる
現在、日本の多くの自動車メーカーは、技術提携を前提としてトヨタ自動車と資本提携関係が構築され、自動車メーカーに必要不可欠なスケールメリットが世界ダントツで拡大している。
- ダイハツ……1967年、トヨタはダイハツ株の過半数を取得し子会社化へ。2016年、トヨタの完全子会社化へ。
- マツダ……2017年、トヨタとマツダの技術・製造を目的とした資本提携により、トヨタはマツダ株5.05%を取得、マツダはトヨタ株の0.25%を取得。
- スズキ……2017年、スズキとトヨタの資本提携により、トヨタがスズキ株4.9%取得し、スズキはトヨタ株0.2%取得。
- スバル……2005年、トヨタと富士重工業の資本提携。2019年、トヨタはスバル株20%を取得し、持ち分法適用会社へ。
- いすゞ自動車……2021年、トヨタといすゞ自動車と資本提携により、トヨタは428億円の出資のもとで、いすゞ自動車株5.0%取得。いすゞもトヨタに同額レベルの出資。トヨタはトラックメーカーのいすゞ、日野、三菱ふそうの3社と資本関係をもつ事に。
2022年度のトヨタグループの販売台数は1056万台で世界シェア12.9%。それにトヨタと資本関係があるマツダ(111万台)、スズキ(300万台)、スバル(85万台)の販売台数を加えると、1552万台で世界シェア19.0%。これはホンダ、日産、三菱を含まない数字。
トヨタを中心とした日系メーカーの技術開発、製造、サプライチェーン網などの大規模利点がすでに確立しており、ドイツ勢やアメリカ勢は日本メーカーに対して完全に勝てない状況になっている。
高性能車載半導体でも協業
2023年12月、トヨタ、ホンダ、日産、スバル、マツダを中心とした車載用高性能半導体「SoC(システム・オン・チップ)」の開発会社「ASRA」を設立。競合どうしで手を組み、合理性的な開発を目指す。日本企業はライバルでも極端に対立する事なく協業できる事が強み。