決算(通年)の売上推移
年度 | 売上高・収益 | 営業利益 [営業利益率(%)] | 純利益・最終損益 [純利益率(%)] |
---|---|---|---|
2014年 | 270億台湾ドル (1080億円) | 40億台湾ドル (160億円) [14.8%] | 39億台湾ドル (156億円) [14.4%] |
2015年 | 275億台湾ドル | 35億台湾ドル [12.7%] | 36億台湾ドル [13.1%] |
2016年 | 296億台湾ドル | 53億台湾ドル [18.0%] | 40億台湾ドル [13.5%] |
2017年 | 322億台湾ドル | 75億台湾ドル [23.2%] | 66億台湾ドル [20.5%] |
2018年 | 771億台湾ドル | 369億台湾ドル [47.8%] | 338億台湾ドル [43.8%] |
2019年 | 413億台湾ドル | 80億台湾ドル [19.3%] | 69億台湾ドル [16.7%] |
2020年 | 676億台湾ドル | 162億台湾ドル [23.9%] | 120億台湾ドル [17.7%] |
2021年 | 1065億台湾ドル (4260億円) | 290億台湾ドル (1160億円) [27.2%] | 229億台湾ドル (916億円) [21.5%] |
- 営業利益と純利益は、台湾の製造業の中でもトップクラス。台湾トップは半導体ファウンドリーのTSMC。
- YAGEOのチップ抵抗器は世界トップシェア。
- YAGEOは生産メーカーが限られる抵抗器や積層セラミックコンデンサーなどの製品を手掛けているため全体的に利益率が高い。
- 製造業で利益率10%超えるのは優秀で、ヤゲオの利益率は村田製作所レベル。
- 2018年に営業利益率47.8%を出しているが、これは2017年から2018年にかけてAmazonやGoogle、マイクロソフトなどによるデータセンター巨額投資で電子部品の需要が急増した事が要因。(この時期は半導体価格も高騰した)
- また、2017年以前に村田製作所が利益率が高い高性能品にシフトして汎用品が不足したことも近年の高利益につながっている。
- 台湾にはPC周辺機器やスマホ関連機器などを製造するEMS企業が多く、そういった企業からの力強い需要があることが安定的な利益につながっている模様。
- 2021年11月時点の株価は日本円で7500億円。日本の電子部品メーカーで言えば、太陽誘電の時価総額(8100億円)レベル。
経営状況
年度 | 総資産 | 負債総額 | 自己資本・純資産 [自己資本比率(%)] |
---|---|---|---|
2015年 | 475億台湾ドル (1900億円) |
222億台湾ドル (888億円) |
252億台湾ドル (1008億円) [53.0%] |
2020年 | 1853億台湾ドル | 1169億台湾ドル | 684億台湾ドル [36.9%] |
2021年 | 2095億台湾ドル (8380億円) |
1299億台湾ドル (5196億円) |
796億台湾ドル (3184億円) [38.0%] |
買収で規模拡大
2018年5月、アメリカの電子部品メーカーであるパルスエレクトロニクスを約7億4000万ドル(約810億円)で買収すると発表。従業員6000人を抱える米国企業を買収したこのニュースは電子部品業界では話題に。デジタル社会に向けて積極的に規模を拡大している模様。
台湾の他の電子部品企業
台湾の有名な電子部品メーカーはYAGEOの他にも華新科技(Walsin:ウォルシン・テクノロジー)やTa-i Technology(タイ・イー・テクノロジー)などがある。
主力ビジネスは何か?
一般に「抵抗器」「コンデンサ」「インダクタ」の3つは「3大受動部品」といわれるが、YAGEOはその部品が成長の柱。
抵抗器
YAGEOの主力製品がチップ抵抗器。抵抗器とは、電流を一定に保ったり、必要に応じて変化させたりするための部品。
YAGEOのチップ抵抗器は世界トップシェア。特に「iPhone向けチップ抵抗器」で急成長したことで有名。以下の世界シェア参照。
台湾にはホンハイ(フォックスコン)、ペガトロン、クアンタ、コンパル、ウィストロンなどの巨大な製造受注企業(EMS)がたくさん存在。
iPhoneやiPadなどのアップル製品も、そういったEMS企業が受託製造しており、そのため必然的に電子部品企業とのつながりが強くなる傾向がある。YAGEOはそこで成長した企業。
もちろんアップルに評価されるような良い製品を供給できていることが前提。
積層セラミックコンデンサー
積層セラミックコンデンサー(MLCC)とは、電気を蓄えて安定的に供給するための部品。世界市場規模は2兆円で今後も伸びていく分野。
基本的に電子機器には必須部品であり、例えばスマホには1台あたり約800~1000個の積層セラミックコンデンサが使われているとされる。
成長分野でもあるセラコンでヤゲオは日本企業に迫る勢いがある。2017年ではヤゲオのMLCCシェアは6%ほどだったが、2019年には13%のシェアを獲得。
村田製作所や太陽誘電、TDKなどの日本勢のシェアは圧倒的だとはいえ、業界でのヤゲオの存在感が増しているのは事実。
なお、信頼性が求められる自動車向けの積層セラミックコンデンサーにおいては、YAGEOはまだその地位を確立できていない。自動車向けは2021年時点では村田やTDKなどの日本勢が独壇場であり、韓国サムスンもほとんど入りこめていない。
そのサムスンもMLCCのシェア19%~21%と高いが、ほとんどが自社製品向け、特にGALAXYスマホ向けがほとんど。そのため、スマホの売り上げが減るとかなりシェアを減らす可能性あり。
サムスンとライバルにあたる中国スマホ企業のシェアが増えているので、サムスンが減らした物量をYAGEOが取り込む可能性あり。
インダクタ
インダクタは、電気エネルギーを磁気の形で蓄えることができる部品。抵抗器、コンデンサと共に3大受動部品の一つといわれる。YAGEOはこの分野でもシェア拡大を目指している。
その他
2018年にアメリカのパルスエレクトロニクスを買収したことで、ワイヤレス関連の製品ラインナップが増えている。日本の村田製作所を意識している可能性がある。
どうやって技術を獲得したのか?
台湾企業の多くは、独自開発の他に日本企業の技術移転・技術供与によって成長したり、日本人エンジニアを採用したりして成長してきたケースが多いが、ヤゲオにおいても同様。
初期には、技術職に多くの日本人エンジニアが採用されていた。韓国サムスンのセラコンにおいても、故イ・ゴンヒ社長の指示のもとで村田製作所やTDKのエンジニアを高額報酬で引き抜いて急成長し、今に至っている。
そして、現在は中国企業が日本のエンジニアを引き抜いて技術を獲得しようとしている。2021年8月、村田製作所の従業員情報が中国企業に漏れたというニュースが出ていたが、つまり中国がパクりに来ているということ。
台湾企業の戦略
台湾企業は、アメリカ企業や日本企業などと真っ向勝負しても人口規模や資金力で勝てないため、日米の企業と「ライバル関係」ではなく「協力関係」となるようなビジネスを育ててきた。
電子製品の製造受託のホンハイやペガトロンなどや、半導体受託製造のTSMCやUMCなどにおいても日米のライバルというよりも協力関係。
そのためYAGEOのような企業が急成長しても、全体的に「脅威」といった意識はもちにくい。
問題は台湾ではなく中国や韓国
日本企業は、スマホやテレビ、家電などで世界シェアが減り、比例して電子部品の必要量も減少している。そのため中国や韓国の電子部品企業が伸びてくれば外国依存レベルが高くなった日本企業もビジネスが難しくなってしまう可能性アリ。
今のところ電子部品業界は日本企業が世界的に圧倒的に強い存在だが、将来的に全く心配なかと言えばウソになる。いずれにせよ韓国と中国の動向を簡単に分析。
韓国の部品産業
- サムスンやLGなどの財閥企業は資金が豊富だが、テレビやスマホなどで競合他社がたくさん存在するので、電子部品サプライヤーとしてのシェアを高めることが難しい。
- サムスンは積層セラミックコンデンサーに限っていえば市場規模が大きいので参入・注力したようだが、サプライヤー専業の村田製作所には勝てない。
- 韓国は財閥グループ以外の企業は財務力が弱くて技術も不足。すでに競争原理も生態系も確立している電子部品産業に入り込みにくい。
- 韓国企業は儒教の影響なのか「下請け」や「部品メーカー」といった立場が弱い状況を嫌う。
韓国企業はスマホ関連の部品ビジネスでは存在感が強いが、村田製作所、TDK、京セラなどが強い電子部品分野での脅威についていえば、サムスンの積層セラミックコンデンサー以外はあまり心配しなくていい。
中国の部品産業
- 中国は電子部品の消費量が世界トップのエリアなので、国策で世界的な企業を育てようとしている。
- 中国には多くの電子部品メーカーがあるが、最も脅威となるのがNAURA(ナウラテクノロジー)。
- 2021年時点では、電子部品市場におけるNAURAのシェアは低いが、村田製作所のような存在を目指しているとの事。
市場規模を考慮しても中国企業が一番の脅威。しかし、日本企業は中国現地でも生産をしていることや、中国企業とのサプライチェーンの信頼性を確立しているので、技術流出を防げば過度に心配する必要はないかもしれない。