Foxconnの決算(通年)の売上推移
年度 | 売上高・収益 | 営業利益 [営業利益率(%)] | 純利益・最終損益 [純利益率(%)] |
---|---|---|---|
2008年 | 1兆4730億台湾ドル (5兆8920億円) | 266億台湾ドル (1064億円) [1.8%] | 551億台湾ドル (2204億円) [3.7%] |
2009年 | 1兆4205億台湾ドル | 247億台湾ドル [1.7%] | 756億台湾ドル [5.3%] |
2010年 | 2兆3131億台湾ドル | 354億台湾ドル [1.5%] | 771億台湾ドル [3.3%] |
2011年 | 2兆7733億台湾ドル | 315億台湾ドル [1.1%] | 815億台湾ドル [2.9%] |
2012年 | 3兆9053億台湾ドル | 1078億台湾ドル [2.8%] | 946億台湾ドル [2.4%] |
2013年 | 3兆9523億台湾ドル | 1093億台湾ドル [2.8%] | 1066億台湾ドル [2.7%] |
2014年 | 4兆2131億台湾ドル | 1431億台湾ドル [3.4%] | 1305億台湾ドル [3.1%] |
2015年 | 4兆4821億台湾ドル | 1642億台湾ドル [3.7%] | 1469億台湾ドル [2.9%] |
2016年 | 4兆3587億台湾ドル | 1749億台湾ドル [4.0%] | 1486億台湾ドル [3.4%] |
2017年 | 4兆7067億台湾ドル | 1125億台湾ドル [2.4%] | 1387億台湾ドル [2.9%] |
2018年 | 5兆2938億台湾ドル | 1361億台湾ドル [2.6%] | 1290億台湾ドル [2.4%] |
2019年 | 5兆3428億台湾ドル | 1148億台湾ドル [2.1%] | 1153億台湾ドル [2.2%] |
2020年 | 5兆3580億台湾ドル | 1108億台湾ドル [2.1%] | 1017億台湾ドル [1.9%] |
2021年 | 5兆9900億台湾ドル (23兆9600億円) | 1489億台湾ドル (5956億円) [2.5%] | 1393億台湾ドル (5572億円) [2.3%] |
- 営業利益と純利益、共に赤字なし。
- 2008年から2021年の間で売上規模4倍。iPhoneの受託製造が売上を押し上げ。
- 台湾のEMS企業の多くは営業利益率2%未満だったりするが、ホンハイの営業利益率は他社と比較して高い。純利益率でも2~3%台。
- ホンハイの利益率が高い理由は、利幅が低い組み立て加工だけのビジネスではなく、部品生産やモジュール生産、液晶パネル生産なども手掛けるため。
- パソコン部品やスマホ部品、ソニーの液晶パネル工場を買収したり、2016年にシャープを買収したりなどにより、自社で供給できる製品量が多い事が利幅が高い理由。スマホに搭載されるカメラモジュールもホンハイ傘下のシャープが生産していたりする。
- 純利益が4000億円~5000億円台と大きい。これが将来に向けた投資の資金源。
- ホンハイの大手顧客であるアップルのCEOティム・クックは、サプライヤーに競争させるために2013年からホンハイ依存度を減らし、台湾ペガトロンや台湾ウィストロンなどへと製造委託を増やしている。2014年度から2017年度にかけて売上高が足踏み状態となっているのは、それが主な理由と思われる。
- 売上高は右肩上がりだが、これは受託製造しているiPhoneの製造原価が上がっていることが要因の一つ。例えば、ディスプレーは液晶から価格が高い有機ELパネルになっている。
- また、任天堂スイッチやプレイステーションの受注生産も売上規模拡大につながっている。
経営状況
年度 | 総資産 | 負債総額 | 自己資本・純資産 [自己資本比率(%)] |
---|---|---|---|
2010年 | 1兆1818億台湾ドル (4兆7272億円) |
7109億台湾ドル (2兆8436億円) |
4709億台湾ドル (1兆8836億円) [39.8%] |
2015年 | 2兆3082億台湾ドル | 1兆2479億台湾ドル | 1兆603億台湾ドル [45.9%] |
2020年 | 3兆6742億台湾ドル | 2兆2001億台湾ドル | 1兆4741億台湾ドル [40.1%] |
2021年 | 3兆9088億台湾ドル (15兆6352億円) |
2兆3356億台湾ドル (9兆3424億円) |
1兆5732億台湾ドル (6兆2928億円) [40.1%] |
2010年以降、自己資本比率40%前後を規律として、安定的に資産規模を伸ばしている。郭台銘社長の経営哲学によるもので、製造業の理想的な財務経営となっている。
EMSの盟主
EMSとは「Electronics Manufacturing Service」の略で、製造受託サービス企業のこと。例えば、iPhoneをアップルから請け負って代わりに製造する企業のこと。
そのEMSが世界で最も盛んな台湾で突出した売上規模をもつのが鴻海精密工業(ホンハイせいみつこうぎょう)。単に「ホンハイ」と言われたり、世界ブランド名の「フォックスコン(Foxconn)」と言われる事が多い。
EMS市場規模
製造受託業界の市場規模は2020年度で57兆円。(これはEMSに分類される企業の売上高合計によるもの)。フォックスコンの2020年度の売上高20兆8963億円は、売上高規模で業界36.6%のシェアとなる。(ただし、フォックスコンの売上高は製造受託以外も多く含まれる)
EMS業界は年々市場規模が増加しており、この分野で寡占的な力をもつ台湾企業は今後さらに製造業には欠かせない存在になっていくはず。
主要顧客
爆発的な売上高をもたらすホンハイの主要顧客は以下。
- アップル→iPhone、iPad、MacBook(PC)
- DELL→ノートパソコン、デスクトップPC、サーバー、モニタ。
- HP(ヒューレット・パッカード)→パソコン、サーバー、モニタ、印刷機器など。
- Google→スマートフォンGoogle Pixel
- Amazon→タブレットPC Kindle Fire
- ソニー→PS(プレイステーション)、薄型テレビ、スマホ(XPERIA)など
- 任天堂→NINTENDOスイッチ、3DS、Wiiなど
- マイクソロソフト→XBOX
- 日米の大手企業から売上規模が大きい製品の受託生産をしているため、比例してホンハイの売上規模も大きくなる。
- DELLやHPから受託生産しているサーバーの生産量が多い。全世界のサーバーの約6割をホンハイが生産しているとされる。
- 中国ファーウェイなども顧客だったが、アメリカからの制裁以降は縮小。
安全保障につながっている
ホンハイの売上高は20兆円以上。EMSという分野で巨額なビジネスに育てることができた理由は政治的な事情が大きい。
台湾は内需が小さく、さらに中国との対立もあるため、アメリカ企業や日本企業とはライバル関係というよりも「協力関係でやっていく」という戦略があった。
そして、人件費高騰の問題を抱えていた先進国の電子製品を受託生産するというビジネスを拡充。結果、台湾には製造受託企業が集中する状況。これはTSMCやUMCなどの半導体ファウンドリー分野でも同様。
そして、ホンハイの製造工場の多くが中国にあり、雇用不安定な中国の雇用をもたらしている状態。つまり、中国側が台湾企業に依存している状態。
中国にとっては台湾企業が他の国に出て行ってしまうと困るため、中国政府も下手な対応を取る事ができない。そして、現在では台湾は世界の製造業で欠かせない存在となり、それが対立する中国から身を守る「経済安全保障」につながっている。
実際にアメリカは「中国から台湾を守る」として、あからさまな動きに出ているが、その理由の一つが台湾にエレクトロニクス産業が集中していることがあげられる。
とてつもない従業員の多さ
フォックスコンの従業員は130万人。この多くが中国工場にある中国人。比較としてトヨタグループが2021年時点で単体7万人、連結36万人なので、フォックスコンがいかに規模が大きい会社なのかがわかる。
製造受託は、典型的な労働集約型のビジネスであり、「技術で勝負」というよりも人件費の管理がビジネス戦略の中核。しかし、多数の人材を抱えながら収益をあげるというのも立派な技術と考える事ができる。
中国依存
ホンハイは2022年時点で全体の75%の生産拠点が中国にあるとされる。そして政治的な事情や人件費高騰の問題があるため、中国依存から脱却を進めている。
一方で、いくつかの中国企業に出資したりして資本関係を進めていたりもする。ソフトバンクと同じように、やはり成長をもたらそうとすると市場が大きい中国との関係を進めないといけない事情がある模様。
利益率が低いが独占的
ホンハイに限らず製造受託企業は、そのビジネスの性質上、利益率が低い。しかし、台湾勢は独占的な力を示している。以下は2020年度の世界の主要な製造受注企業の業績。
順位 | 企業名 | 売上高 | 純利益 [純利益率(%)] |
---|---|---|---|
1位 | フォックスコン(台湾) | 20兆8963億円 | 3969億円 [1.8%] |
2位 | ペガトロン(台湾) | 5兆4704億円 | 788億円 [1.4%] |
3位 | クアンタ(台湾) | 4兆2543億円 | 987億円 [2.3%] |
4位 | コンパル(台湾) | 4兆908億円 | 365億円 [0.8%] |
5位 | ウィストロン(台湾) | 3兆2955億円 | 338億円 [1.0%] |
6位 | ジェイビル(アメリカ) | 2兆9802億円 | 58億円 [0.1%] |
7位 | フレックス(シンガポール) | 2兆6341億円 | 670億円 [2.5%] |
利益率を高めるため、どのEMS企業も人間の代わりとなるロボットを導入して、工場自動化を進めている。中国のシャオミやOPPO、VIVOなどのスマホメーカーでも同様。
そして、利益率は低いが上位5位すべて台湾企業。その5社の売上高合計は約38兆円。世界のエレクトロニクス産業の市場規模が150兆円~200兆円ほどと言われるので、おおまかに計算すると業界全体の19%~25%くらいが台湾のEMS企業5社が関係していることになる。
なお、その台湾勢5社以外にも、イノラックス、インベンテック、TPVテクノロジーなど、日本円で1兆円以上の売上高をもつEMS企業が存在。この分野は「台湾のビジネス」だと言っていいレベル。
参入障壁が高い
フォックスコンを含む製造受託業界は、どんな企業でも参入できるように見えて、実は参入障壁が高いという事実がある。理由は以下。
- 台湾EMS企業の営業利益率は2%前後が目安。利益率が低いビジネスであるため、参入してもあまり儲からない。そのため新規参入企業が少ない。
- 利益が低いので小規模ビジネスは難しい。しかし規模を大きくするとなると生産性の高い巨大工場を所有する必要がある。
- 製品を組み立てるための多くの従業員を雇用する必要がある。つまり、市況の変化によるリストラなどの人的な管理が難しい。
- すでに既存の大手企業だけでも競争が激しい。
「下請け」だとか「組み立て業」などと軽視する人も多いが、この製造受注ビジネスはかなり難しい経営判断が求められる。だからこそ参入が難しい。
この分野では今後も台湾勢が占有的で絶対的な地位を維持していくことに。国力が小さい台湾がこういったビジネスで存在感を示すことになったのは立派な事。
EMSの日本企業は?
日本のEMS企業は、シークスやUMCエレクトロニクスなどがある。シークスは車載向けが中心。UMCエレクトロニクスは車載機器や電子機器などが中心。売上規模は以下。
- シークス…売上高1815億円(2020年度)
- UMCエレクトロニクス…売上高1361億円(2020年度)
- スミトロニクス…売上高1243億円(2020年度)
日本には、台湾のEMSメーカーのような規模をもつ企業はない。そもそもEMSは人件費が高い国のビジネスではないのでしょうがない。
多角化を目指す
スマートフォンやパソコンは成長に伸びしろがないため、ホンハイは単純な製造請負以外のビジネスを増やす動きがある。簡単に言えば「多角化」だが、その動きが以下。
2016年ノキアの携帯電話事業を買収。
2018年東芝のPC事業(dynabook:ダイナブック)を買収。
世界中の企業から、パソコンやスマホ、プリンタなどの製造を請け負っているホンハイが、パソコンやスマホなどの完全自社製品のビジネスを拡大。
これは製造受託企業として、顧客とライバル関係になるということであり、信頼関係を損ねる問題がある。例えば、DELLのパソコンとホンハイのダイナブックが競合になるとDELLはホンハイから離れていくことになったりする。
会社規模が大きくなると、いろいろビジネスは難しくなるが、ホンハイもそういった実質的な問題に直面している模様。
電気自動車の「製造」へ参入
ホンハイは、受託製造メーカーとしてEV(電気自動車)分野にも参入表明。世界中の自動車関連会社に呼びかけ、サプライチェーン構築に急いでいる。
共同開発に100社ほどの日本企業が参加。トヨタ系のデンソーの他、中核部品であるモーターにおいてはNIDEC(日本電産)と提携し、共にEVの開発を進めていくとされる。
将来的にトヨタの「スープラ」や「86」などの収益性が悪いクルマを、ホンハイが受託生産する可能性もある。
すでにカナダのマグナ・インターナショナルが自動車の受託生産で存在感を高めている中、フォックスコンは自動車分野でもEMSトップを目指していくと思われる。
しかし、パソコンやスマホなどの製造・組み立てと、自動車製造は大きく違うため、ホンハイがEV市場でどのくらいの存在感を示す事ができるかは不明。
歴史
ホンハイの簡単な歴史をまとめておく。
1974年「鴻海プラスチック工業」として設立。その名の通り、プラスチック部品の製造で事業開始。
1975年「鴻海工業」に商号を変更。テレビを中心に様々な家電製品のプラスチック部品の製造を手掛ける。
1981年パソコン部品の製造に参入。
1982年「鴻海精密工業」に商号を変更。
1990年代Windows95以降のPC普及期、本格的にパソコン部品の製造を拡大。液晶パネルやマザーボード、コネクタなど。
2000年代PCや携帯電話の普及期は、多くの企業買収を成功させ、製造受託企業として本格的に規模を拡大していく。携帯はノキアやモトローラー製品を受託生産。
2001年iPodの初登場が2001年。その後のiPod nanoなどのアップル製品を受注し急成長。この時のアップルとの関係が現在の業界地位につながっている。
2007年iPhoneの初登場が2007年6月。この最初のiPhoneもホンハイが受託生産。その後、売上規模が拡大していく。
2010年代スマートフォンやタブレット市場が本格的に拡大。ここから主にアップルからの受注で売上高を急激に伸ばす。
2016年日本のシャープ買収。
2020年代EV(電気自動車)にも本格参入。ロボティクス、通信関連、ヘルスケアなどにおいても事業拡大を目指す。
この会社の歴史を見ても、社長の飛躍意識が高いことがわかる。その飛躍は日本企業とかぶらない範囲でお願いしたいところ。