JOLED(ジェイオーレッド)の連結決算:通年の売上推移
年度 | 売上高・収益 | 営業利益 [営業利益率(%)] | 純利益・最終損益 [純利益率(%)] |
---|---|---|---|
2017年 | 5600万円 | -149億円 [-26607%] | -147億円 [-26250%] |
2018年 | 14億円 | -247億円 [-1764%] | -259億円 [-1850%] |
2019年 | 18億円 | -284億円 [-1577%] | -372億円 [-2066%] |
2020年 | 59億円 | -310億円 [-525%] | -877億円 [-1486%] |
2021年 | 56億円 | -211億円 [-376%] | -239億円 [-426%] |
- JOLEDは2015年の設立から営業利益と最終損益、ともに赤字が続いている。
- 2021年3月に量産出荷が始まっているはずだが、2021年度の売上高が伸びていない。
- 黒字化できない理由は開発コストと良品率の問題。
- 製造量産している14インチ、22インチ、27インチ、32インチの「OLEDIO(オレディオ)」ブランドの中型有機ELディスプレー(OLED)は、需要は強いが、量産歩留り(良品率)が上がらず、コストばかり上がっている模様。2023年3月追記:JOLEDによると、じょじょに歩留りは上がっている模様。
- また、石川県と千葉県にある工場の生産能力が低く、市場を動かすほどのボリュームではない事も問題。液晶パネルが占有する中型ディスプレイ市場において、業界が無視できるレベルの製造量では顧客との商談も不利になる。
- いずれにせよ、できる限り早く良品率を上げてサプライヤーとしての信用をつくりたい。
- 競合の業績推移
- サムスンディスプレイ
- LGディスプレイ
- シャープ(ディスプレイ部門)
- ジャパンディスプレイ
- 中国BOE
- 2023年3月27日、JOLEDは東京地裁に対して民事再生手続きを申請。つまり倒産。負債総額は337億円。
- INCJ(旧産業革新機構)は、JOLED設立前から8年以上にわたって研究開発資金などをサポート。支援総額1390億円も実らず経営破綻。
- 多くのメディアでは「市況悪化が原因」「需要の減少」と言われているが、本質的に言えば技術的な問題を解決できなかった事が要因。量産による収益性確保にメドがたっていれば、まだまだ資金が投入されるはずだが、他社とは違った「印刷方式」の独自技術による量産が難しい事に結論がつけられた形。
- JOLEDのエンジニアや、有機EL関連の技術(知的財産)は、ジャパンディスプレイ(JDI)が引き継ぐ見込み。
財政・経営状況
年度 | 総資産 | 負債総額 | 自己資本・純資産 [自己資本比率(%)] |
---|---|---|---|
2017年 | 302億円 | 34億円 | 268億円 [88.7%] |
2018年 | 1224億円 | 126億円 | 1008億円 [82.4%] |
2019年 | 1005億円 | 285億円 | 720億円 [71.6%] |
2020年 | 436億円 | 394億円 | 41億円 [9.4%] |
2021年 | 296億円 | 493億円 | -197億円(債務超過) [-66.6%] |
- 大きな声では言えないが、JOLEDの財務はかなり危ない。
- JOLEDが上場企業ではない事や事業規模が大きくないため話題にならないが、政府支援などの「どこかの援助」がなければ事業継続が難しい状況。倒産の可能性もある。
- そもそもソニーとパナソニックから分離された財務力が弱い企業が、多額の設備投資が必要なディスプレー業界でビジネスを続けていく事自体が難しいもの。JOLEDを批判してはいけない。
発足当時の株主比率
- 産業革新機構(75%)
- ジャパンディスプレイ(15%)
- ソニー(5%)
- パナソニック(5%)
会社設立から資金繰りの動向
- 2015年1月、産業革新機構主導で、ソニーとパナソニックの有機EL開発部門を統合してJOLED(ジェイオーレッド)設立。液晶パネルメーカーのジャパンディスプレイ(JDI)も資本参加。
- 2018年8月、JOLEDは自動車部品メーカーのデンソーから300億円、豊田通商から100億円を調達。石川県能美市に印刷方式OLED量産工場を建設。
- 2019年4月、第三者割当増資により、官民ファンドのINCJ(産業革新投資機構)、ソニー、NISSHAの3社から総額255億円を調達。千葉県茂原市にモジュール化と最終検査のためのOLED後工程工場を建設。
- 2020年6月、JOLEDは中国TCLグループと資本業務提携を締結。第三者割当増資によりTCLグループから総額200億円を調達。そして、印刷方式を採用したテレビ向け大型有機ELディスプレイの共同開発も開始。
資本金を減資
2021年3月、JOLEDの資本金をそれまでの877億円から1億円に減資。資本金1億円以下の企業は税制上、中小企業とみなされることから、税負担を軽くする事が目的。悪化する財政の健全化に向けた判断。
技術と生産について
RGB印刷方式
有機ELディスプレイパネルの大手である韓国のLGディスプレイやサムスンは「蒸着方式」で生産。
一方、JOLEDは「RGB印刷方式」。「蒸着方式」よりも生産効率が高く、量産が上手くいけば蒸着方式に比べて15%~20%も製造コストを削減できるとされる。
問題は歩留り。生産における良品率が高くならないとビジネスは成立しないが、JOLEDによると、しだいに歩留りは改善しているとされる。
工場拠点
- 石川県能美市に有機ELパネル量産工場。
- 千葉県茂原市に有機EL後工程工場。(モジュール化と最終検査工程)
中型OLEDに特化
JOLEDは、22インチ、27インチ、32インチの中型サイズの有機ELディスプレイ(OLED)に特化。このサイズでの有機ELパネルは他社も量産成功しておらず、JOLEDが唯一の存在であるため。
韓国のサムスンやLGディスプレーが採用する蒸着方式は小型や大型サイズに適しているが、中型サイズは技術的に量産が難しい。JOLEDは他社が成功できていない領域を攻める。
PCモニタや車載ディスプレイは高利益分野
一般テレビにおいて、サイズ別の売れ筋で言えば32インチが最も販売台数が多い。JOLEDはその領域でシェアを確立したい。
最も期待できるのが、市場が拡大するゲーミングPCモニター。高額でもいいから高画質モニターでゲームをしたいというコアゲーマーからの需要を付加価値の高い製品で販売拡大したいところ。
また、デンソーがJOLEDに出資している事もあって、車載ディスプレイにおいても成長分野の一つ。高級車部門において、液晶では実現できないキレイなディスプレイを供給していきたい。
顧客と採用実績
- ソニーの医療用モニター
- ASUSのプロフェッショナルモニター
- LGエレクトロニクスのプロフェッショナル用モニター
- トヨタのコンセプトカー「LQ」にデンソーとJOLEDが共同開発したフレキシブル有機ELディスプレイが採用
独自の製造装置をもつ
JOLED社は印刷方式という独自方法で有機ELパネルを製造するが、その製造装置はJOLEDが自社開発したもの。
JOLEDは、単にディスプレー製造だけではなく、ディスプレー関連の部品や材料、製造装置などの研究開発企業でもある。
つまり、競合他社がマネできない技術をもっているという事であり、将来的に製造装置ビジネスも拡大していける可能性があるという事。
これから歩留り改善
現在のJOLEDの有機EL量産は良品率が悪く、生産性が悪い状態だが、2021年に本格量産が始まったばかりだから仕方がない。サムスンやLGの有機ELディスプレーも最初は良品率が悪かったが、JOLEDも同様。
開発と試作の段階で量産が実現できる事が証明されたうえで工場建設が実行されているが、今後は最も量産に適した製造法を確立して良品率を高め、ディスプレー業界で飛躍していくに違いない。