Amazonというと一般には通販サイトというイメージ。実際に売上高の規模で言えば通販事業が圧倒しているが、「利益」と言えば多くの割合がAWS(アマゾン・ウェブ・サービス)というクラウド事業でもたらされている。
AWSは、世界190か国以上で展開し、数百万のユーザー数で業界トップシェア。今回は、圧倒的な利益を出すAWS単体の業績について。
Amazonの決算(通年)の売上推移
アマゾンのクラウド事業の発足は2006年。しかし、2014年までAWS単体の売上や営業利益を開示していなかった。2015年第一四半期から業績詳細を公開したため、データは2015年から。
年度 | 売上高・収益 | 営業利益 [営業利益率(%)] |
---|---|---|
2015年 | 78.79億ドル | 18.62億ドル [23.6%] |
2016年 | 122.18億ドル | 31.28億ドル [25.6%] |
2017年 | 174.58億ドル | 43.30億ドル [24.8%] |
2018年 | 256.54億ドル | 72.95億ドル [28.4%] |
2019年 | 350.26億ドル | 92.00億ドル [26.2%] |
2020年 | 453.69億ドル | 135.30億ドル [29.8%] |
2021年 | 622.20億ドル | 185.32億ドル [29.7%] |
- 利益率が30%近くに到達。
- インテルやマイクロソフトなどのアメリカの独占企業は一般に30%前後の利益率でビジネスをやる慣習があるが、AWSも独占的な力をもっていると言える。
- 巨大企業においては特に独占禁止法に関連して問題となるため、利益率30%前後から大幅に超えることはない。
全体の決算(通年)の売上推移
ここでアマゾン全体の業績も確認。Amazonの設立が1994年7月、データは1995年度から。なお、クラウド事業のAWSは2006年から参入しているが、その業績も全体の売上に含まれる。
年度 | 売上高・収益 | 営業利益 [営業利益率(%)] |
純利益・最終損益 [純利益率(%)] |
---|---|---|---|
1995年 | 51万ドル | -30万ドル(赤字) [-58.8%] |
-30万ドル(赤字) [-58.8%] |
1996年 | 1574万ドル | -597万ドル(赤字) [-37.9%] |
-577万ドル(赤字) [-36.7%] |
1997年 | 1.48億ドル | -0.33億ドル(赤字) [-22.3%] |
-0.31億ドル(赤字) [-20.9%] |
1998年 | 6.10億ドル | -1.09億ドル(赤字) [-17.8%] |
-1.24億ドル(赤字) [-20.3%] |
1999年 | 16.40億ドル | -6.06億ドル(赤字) [-36.9%] |
-7.19億ドル(赤字) [-43.8%] |
2000年 | 27.62億ドル | -8.64億ドル(赤字) [-31.2%] |
-14.11億ドル(赤字) [-51.0%] |
2001年 | 31.22億ドル | -4.12億ドル(赤字) [-13.1%] |
-5.67億ドル(赤字) [-18.1%] |
2002年 | 39.33億ドル | 0.64億ドル [1.6%] |
-1.49億ドル(赤字) [-3.8%] |
2003年 | 52.63億ドル | 2.71億ドル [5.1%] |
0.35億ドル [0.7%] |
2004年 | 69.21億ドル | 4.40億ドル [6.3%] |
5.88億ドル [8.5%] |
2005年 | 84.90億ドル | 4.32億ドル [5.0%] |
3.33億ドル [3.9%] |
2006年 | 107.10億ドル | 3.89億ドル [3.6%] |
1.90億ドル [1.8%] |
2007年 | 148.35億ドル | 6.55億ドル [4.4%] |
4.76億ドル [3.2%] |
2008年 | 191.66億ドル | 8.42億ドル [4.3%] |
6.45億ドル [4.0%] |
2009年 | 245.09億ドル | 11.29億ドル [4.6%] |
9.02億ドル [3.7%] |
2010年 | 342.04億ドル | 14.06億ドル [4.1%] |
11.52億ドル [3.4%] |
2011年 | 480.77億ドル | 8.62億ドル [1.8%] |
6.31億ドル [1.3%] |
2012年 | 610.93億ドル | 6.76億ドル [1.1%] |
-0.39億ドル(赤字) [-0.06%] |
2013年 | 744.52億ドル | 7.45億ドル [0.9%] |
2.74億ドル [0.4%] |
2014年 | 889.87億ドル | 1.77億ドル [0.2%] |
-2.41億ドル(赤字) [-0.3%] |
2015年 | 1070.05億ドル | 22.32億ドル [2.0%] |
5.96億ドル [0.5%] |
2016年 | 1359.87億ドル | 41.86億ドル [1.7%] |
23.71億ドル [1.7%] |
2017年 | 1778.66億ドル | 41.06億ドル [2.3%] |
30.33億ドル [1.7%] |
2018年 | 2328.87億ドル | 124.21億ドル [5.3%] |
100.73億ドル [4.3%] |
2019年 | 2805.22億ドル | 145.41億ドル [4.8%] |
115.88億ドル [4.1%] |
2020年 | 3860.64億ドル | 228.99億ドル [5.5%] |
213.31億ドル [5.5%] |
2021年 | 4698.22億ドル | 248.79億ドル [5.2%] |
333.64億ドル [7.1%] |
- Amazonの営業利益の大半がクラウド事業のAWSの利益によるもの。2021年度は利益の74.5%をAWSが稼ぎ出す。
- 2021年度の売上規模が4698億ドル(約51兆円)という規模で、近い将来1兆ドルの大台にのる?といわれている。
- 通販事業は薄利多売とはいえ、事業各国の物流の核心的な存在になってきている。
財務の推移
年度 | 総資産 | 負債総額 | 自己資本・純資産 [自己資本比率(%)] |
---|---|---|---|
2000年 | 21.35億ドル | 31.02億ドル | -9.67億ドル(債務超過) [-45.3%] |
2010年 | 187.97億ドル | 119.33億ドル | 68.64億ドル [36.5%] |
2020年 | 3211.95億ドル | 2277.91億ドル | 934.04億ドル [29.1%] |
2021年 | 4205.49億ドル | 2823.04億ドル | 1382.45億ドル [32.9%] |
- 1994年の設立からしばらくは利益が出ない中で先行投資が続き、債務超過に陥る事もあったが、投資家はジェフ・ベゾスを信じ続けた。
- 2000年から2020年の20年間で総資産規模は150倍。2010年から2020年の10年間で総資産規模は17倍。
- 現在は財務的にも安定。素晴らしい利益や将来性と比例して株式時価総額も世界トップレベル。とても倒産するような企業ではない。
圧倒的になった理由
世界中で、クラウドサーバを利用している企業の2社に1社が利用しているという報告もあるAWS。その強さは何か。
とにかく安い
利用者ならばわかるコトだが、AWSは業界でも特に運用コストが安い。そのカラクリは以下。
↓↓↓
STEP2初期段階は低利益レベルでサービス価格を下げて利用ユーザーを増やす。
↓↓↓
STEP3ユーザーが増えたことでさらにデータセンター増強。サーバー大量調達により、一台当たりの調達コストをさらに減らせる。
↓↓↓
STEP4さらに価格を下げることで、さらに利用者が増える。他社が勝負できないレベルになっていく。
こういった好循環によってクラウド業界ダントツのシェアを獲得している。調べによるとサービス開始時から10年間で70回以上も値下げを繰り返しているという。
Amazonは2014年までAWS単体の売上高や利益率を公表しなかったが、その理由は、とても普通じゃないビジネスをやっていたことが要因としてあげられる。
Amazon創業者のジェフ・ベゾスのビジネススタイルは、一気に集中投資してスケールメリットを確立し、市場を独占化して最終的に高利益化すること。韓国のサムスン電子のやり方と同じ。これはあざとい。
なぜ評価されるのか?
AWSが世界中で評価されるのは利用料金が安いうえに機能を惜しげもなく提供していることろ。
専門的な話しになるが、オブジェクトストレージサービスから始まり、仮想サーバ、マネージド型データベース、人工知能サービス(AI)、機械学習サービス、セキュリティ機能など、他社のクラウドビジネスと比較して提供サービスが完全に他社を圧倒。
大手IT企業さえもAWSを利用して事業を行うことが珍しくない状況となっている。例えば、ソニーもAWSを利用していろいろビジネスを行っていたりする。(クラウドゲームの開発もAWSだったりする)
クラウドはトップシェア
かつてはサーバー会社のサービスを利用するというと使用領域、スペックが決まっていた。そのため、使用量が少なくても、契約した分の料金を支払う必要があった。
それと比較してクラウドサーバーの良いところは「必要な分だけ利用できる」ということ。使用量が少ないならば運用コストを抑えられるし、急激にトラフィックが増えてもサーバーダウンを避けることができる。
今後本格的なデジタル社会に入る中、サーバーに保存されるデータのほとんどが運用が楽なクラウドサーバーに移っていくと言われているが、その分野で絶対的となってしまったのがAmazonのAWSというワケ。会社の利益もずっと安泰。株主もホクホク。
順位 | 企業 | 売上高・収益 | 市場シェア |
---|---|---|---|
1位 | アマゾン・ウェブ・サービス(AWS) | 4兆5210億円 | 33% |
2位 | マイクロソフト Azure | 24660億円 | 18% |
3位 | Google Cloud | 1兆960億円 | 8% |
4位 | IBM Cloud | 8220億円 | 6% |
5位 | アリババ Cloud(中国) | 6850億円 | 5% |
6位 | セールスフォース | 4110億円 | 3% |
7位 | オラクル Cloud | 2740億円 | 2% |
8位 | テンセント Cloud(中国) | 2740億円 | 2% |
9位 | その他 | 3兆1510億円 | 23% |
AWSの世界シェア33%で、これはマイクロソフトのAzure(アジュール)のシェア18%の倍近くという状況。評判も良いのでこのままトップシェアを守り続けると予想される。
AWSだけを分社化して上場させたらアップルと同じレベルの株価になると言われたりするのも納得。「あの時、Amazonの株を買っていたら・・・」。何度そんな事を思ったことだろうか。
日本企業は勝てないのか?
結論から言えば、日本のNTTや富士通などのクラウドサービスはAWSには勝てない。Amazonの社長ジェフベゾスは、サービス開始時からNTTよりはるかに高額のデータセンター投資を続けてきており、その結果が現在。
アマゾンのサービスは、すでに世界中から認められている存在なので、資金力や知名度、実績で劣る日本勢がここから巻き返すなどは無理。
クラウドを利用する日本企業においても、NTTや富士通などよりも、AWSやマイクロソフトのAzure(アジュール)などに流れており、さらにGoogleクラウドも猛追している状況下、日本勢の巻き返しは難しい。
NTTはニッチで勝負
詳しい内容は省略するが、NTTはAmazonやマイクロソフトなどがやっていないニッチな情報管理ビジネスで利益を出していたりする。
やはり、Amazonのように規模を活かしてドカっと稼ぐ巨大クラウド業者は、少数派を取り込めない部分がある。その隙間を知るNTTは、巨大プレーヤーが及ばない細かなニーズを拾って世界で顧客を獲得している。
プラス思考で考えるべし
「なぜ日本にはGAFAM(Google、Amazon、Facebook、Apple、Microsoft)が誕生しなかったのか?」みたいに愚痴っているネット記事をたまに見かけるが、そもそも考え方が間違っている。
むしろGAFAMのような日本企業が誕生するとマズい。なぜならアメリカは世界の覇権を握るため情報産業を絶対死守したい事情があり、例えばアメリカ企業を脅かす日本企業がいくつも誕生すると、日米が対立構造になってしまう問題が生じてしまう。
過去の事例で言えば、円安阻止政策だったプラザ合意(1985年)、日米半導体協定(1986年~1996年)、スーパー301条(1988年~)、東芝、NEC、富士通などへの不条理な制裁など、アメリカは日本に対して多くの弱体化対策をした歴史があり、やはり当時のアメリカは情報産業が日本に集中してしまうことを恐れていた。
しかし、今となっては情報産業はアメリカ企業で独占・寡占することになり、一方の日本はアメリカを脅かすような情報産業企業をもたなくなった。
そのため、現在のアメリカは日本企業を制裁対象として見なくなったのだが、その状況になって良かったことを一つあげれば、なんといっても金融政策。
例えば現在、日本の円安政策ともいえる量的緩和政策をアメリカから制裁されないのも、「日本は脅威」という認識では無くなっている事が前提。一昔前ならば、大規模量的緩和など実現できなかった。
つまり、「日本では、なぜGAFAMが誕生しないのか?」ではなく、誕生しなかったから国益につながっている部分もあるということ。
日本は自動車産業を中心として多くの雇用と売上規模(物作りの規模)をもたらす産業を守り、安定的な経常収支を確立することができたので、GAFAMレベルの日本企業が無いくらい、どうって事はないというワケ。プラスで考えるべし。