Wistronの連結決算:通年の売上推移
年度 | 売上高・収益 | 営業利益 [営業利益率(%)] | 純利益・最終損益 [純利益率(%)] |
---|---|---|---|
2005年 | 1549億台湾ドル (6196億円) | 36億台湾ドル (144億円) [2.3%] | 32億台湾ドル (128億円) [2.1%] |
2006年 | 2183億台湾ドル | 70億台湾ドル [3.2%] | 52億台湾ドル [2.4%] |
2007年 | 2768億台湾ドル | 61億台湾ドル [2.2%] | 66億台湾ドル [2.4%] |
2008年 | 4222億台湾ドル | 60億台湾ドル [1.4%] | 69億台湾ドル [1.6%] |
2009年 | 5231億台湾ドル | 67億台湾ドル [1.3%] | 91億台湾ドル [1.7%] |
2010年 | 5466億台湾ドル | 84億台湾ドル [1.5%] | 120億台湾ドル [2.2%] |
2011年 | 5864億台湾ドル | 59億台湾ドル [1.0%] | 91億台湾ドル [1.5%] |
2012年 | 5987億台湾ドル | 57億台湾ドル [0.9%] | 67億台湾ドル [1.1%] |
2013年 | 6240億台湾ドル | 61億台湾ドル [0.9%] | 58億台湾ドル [0.9%] |
2014年 | 5923億台湾ドル | 38億台湾ドル [0.6%] | 36億台湾ドル [0.6%] |
2015年 | 6232億台湾ドル | 24億台湾ドル [0.4%] | 13億台湾ドル [0.2%] |
2016年 | 6599億台湾ドル | 60億台湾ドル [0.9%] | 30億台湾ドル [0.5%] |
2017年 | 8360億台湾ドル | 59億台湾ドル [0.7%] | 44億台湾ドル [0.5%] |
2018年 | 8895億台湾ドル | 107億台湾ドル [1.2%] | 49億台湾ドル [0.5%] |
2019年 | 8782億台湾ドル | 133億台湾ドル [1.5%] | 68億台湾ドル [0.7%] |
2020年 | 8450億台湾ドル | 144億台湾ドル [1.7%] | 86億台湾ドル [1.0%] |
2021年 | 8620億台湾ドル | 163億台湾ドル [1.9%] | 104億台湾ドル [1.2%] |
2022年 | 9846億台湾ドル | 275億台湾ドル [2.8%] | 112億台湾ドル [1.1%] |
2023年 | 8670億台湾ドル | 273億台湾ドル [3.1%] | 182億台湾ドル [2.1%] |
平均利益率
会社の動向
- ウィストロン(英語: Wistron、台湾名:緯創資通)の設立は2001年。台湾のパソコンメーカー「acer/エイサー」から製造部門を分離して誕生。
- 他社製品の製造請負である「EMS」という形だけではなく、製品設計/開発も行う「ODM」企業でもある。
- エイサーの製品を受託製造。そのエイサーは、パソコン/コンピューター関連が中心のハイテク企業。ノートパソコン、デスクトップPC、マザーボード、PCモニタ、サーバ、ストレージなどがビジネスの中核。
- 従業員は世界に8万人以上を雇用。
- 2012年から2020年にかけて、売上高があまり上がっていない。一方、台湾同業のホンハイやペガトロンは2倍前後に増加。ホンハイはスマホで成長したが、ウィストロンはパソコン市場の成熟と共に売上もやや停滞。
- 全体的に利益率は低いが、営業利益と純利益、ともに赤字なし。
- 2016年から2017年にかけて売上が急増しているが、iPhoneの製造請負の増加によるもの。
- 2023年、それまでインドでアップル「iPhone」の受託製造をしていたが撤退。工場はインドのタタグループに売却。世界販売が下火であるスマホの製造縮小を判断。
- 今後は、利幅が良いサーバーや成長期待が高い車載関連のビジネスを増やす見込み。
- EMS競合の業績推移
- ホンハイ(フォックスコン)
- ペガトロン
- クアンタ・コンピュータ
- コンパル・エレクトロニクス
Wistronの財政・経営状況
年度 | 総資産 [現金・手元資金] |
負債総額 [有利子負債] |
自己資本・純資産 [自己資本比率(%)] |
---|---|---|---|
2010年 | 1784億台湾ドル [406億台湾ドル] |
1215億台湾ドル [420億台湾ドル] |
568億台湾ドル [31.8%] |
2015年 | 2903億台湾ドル [585億台湾ドル] |
2211億台湾ドル [912億台湾ドル] |
692億台湾ドル [23.8%] |
2020年 | 4288億台湾ドル [662億台湾ドル] |
3448億台湾ドル [1273億台湾ドル] |
839億台湾ドル [19.6%] |
2021年 | 4972億台湾ドル [701億台湾ドル] |
4048億台湾ドル [1735億台湾ドル] |
924億台湾ドル [18.6%] |
2022年 | 4329億台湾ドル [663億台湾ドル] |
3142億台湾ドル [1453億台湾ドル] |
1187億台湾ドル [27.4%] |
海外売上比率
国/地域 | 2020年 | 2021年 | 2022年 |
---|---|---|---|
アメリカ | 40.2% | 40.2% | 46.7% |
日本 | 2.8% | 2.5% | 2.9% | 香港/中国 | 23.7% | 18.4% | 12.7% |
東南アジア | 3.4% | 3.7% | 2.9% |
ヨーロッパ | 20.8% | 23.6% | 21.9% |
その他 | 9.1% | 11.7% | 12.9% |
主要顧客:取引先企業
- アップル(MacBook、iPhone、iPad)
- マイクロソフト
- Amazon
- DELL
- ピューレットパッカード
- テスラモーター
- なんといっても大口顧客はアップル。iPhoneの売上比率が高くなっている。
- なお、日本企業とのつながりは長いが、スマホやPC、データセンター関連で日本企業の存在感がなくなってしまったので、取引量は増えていない。
- ウィストロンは、スマホやPCは世界需要が頭打ちのようなところがあるため、今後は伸びしろがあるデータセンター向け/サーバー関連のビジネスを強化中。
iPhoneを製造する3社
米国AppleはiPhoneの製造を主に台湾の製造受託企業3社に委託している。(受託比率はおおまかな数字)
- 鴻海精密工業(受託比率60~70%)
- ペガトロン(受託比率20~30%)
- ウィストロン(受託比率10~20%)
iPhoneが2007年に初登場した時は、鴻海精密工業(フォックスコン)が一元的に製造。しかし、2013年以降、フォックスコン一極依存を避けるために、アップルはペガトロンやウィストロンなどへの委託を増やす。それが、ウィストロンの売上高増加に反映。
市場シェア
製造受託業界の市場規模は2020年度で5000億ドル(日本円で55兆円)。ODMも含めると6000億ドル(日本円で66兆円)の市場になる。(1ドル110円で換算)
2020年度のウィストロンの売上高3兆2955億円は、金額ベースで言うと4.9%~5.9%のEMS/ODM市場シェアということになる。(大まかな目安として)
世界EMSメーカーランキング
順位 | 企業名 売上高 |
営業利益 [営業利益率(%)] |
純利益・最終損益 [純利益率(%)] |
---|---|---|---|
1位 | ホンハイ精密工業(台湾) 6兆6269億台湾ドル (26兆5076億円) |
1738億台湾ドル (6952億円) [2.6%] |
1415億台湾ドル (5660億円) [2.1%] |
2位 | ペガトロン(台湾) 1兆3176億台湾ドル (5兆2704億円) |
254億台湾ドル (1016億円) [1.9%] |
151億台湾ドル (604億円) [1.1%] |
3位 | クアンタ(台湾) 1兆2804億台湾ドル (5兆1216億円) |
312億台湾ドル (1248億円) [2.4%] |
290億台湾ドル (1160億円) [2.3%] |
4位 | ジェイビル(米国) 334.78億ドル (4兆3521億円) |
13.93億ドル (1811億円) [4.2%] |
9.96億ドル (1295億円) [3.0%] |
5位 | コンパル(台湾) 1兆732億台湾ドル (4兆2928億円) |
92億台湾ドル (368億円) [0.9%] |
73億台湾ドル (292億円) [0.7%] |
6位 | ウィストロン(台湾) 9846億台湾ドル (3兆9384億円) |
275億台湾ドル (1100億円) [2.8%] |
112億台湾ドル (448億円) [1.1%] |
7位 | フレックス(シンガポール) 260.41億ドル (3兆3853億円) |
9.72億ドル (1264億円) [3.7%] |
9.36億ドル (1217億円) [3.6%] |
- 2022年度は、ウィストロンは受託製造業界で世界6位。
- 台湾には立派な製造請負企業が多くあるが、どの企業もやはり「下請け」という立場なので利益率が1%~2%台と低い。しかし、売上規模が大きいので純利益はそこそこ残る。
- EMS業界の上位7社中、台湾企業は5社ランクイン。その5社の売上高をすべて合計すると約45兆円。世界のエレクトロニクス産業の市場規模が200兆円~250兆円ほどと言われるので、おおまかに言えば全体の18%~22%ほどを台湾5社を経由していることになる。
- なお、台湾の5社以外にもさらにいくつかのEMS企業が存在。台湾の人口は2300万人(2020年度)と小さなボリュームだが、その規模で世界の製造業の多くの要素を占める存在となっている。
中国企業も入り込みにくい
中国にも製造請負ビジネスで成長しようとする企業があり、台湾企業に代わってApple製品の受託製造を狙っている企業もある。しかし、世界のEMS市場で中国企業が台湾勢から大きくシェアをとるのは難しい。
- すでに台湾のホンハイ(フォックスコン)やウィストロン、ペガトロンなどはスケールメリット(規模の優位性)を確立している絶対的な状況。
- 製造請負業の花形製品であるスマートフォンやパソコンなどが成熟市場となり、伸びしろが期待できない。
- すでに競争が激しく、どの台湾EMS企業も利益率が低い。つまり、この業界に参入しても利益を出すことが難しいので、積極投資も難しい。
- 中国の政情不安や米中対立もあることから、中国企業は世界のエレクトロニクス企業との信頼関係を構築するのが難しい。
- 低価格勝負の中国の電子機器メーカーは垂直統合型(設計も製造も販売も自社)ビジネスが基本。つまり、製造を他社に委託したりすると低価格勝負では利益がでないため、中国の電機メーカーは中国のEMSメーカーに委託するという事は少ない。
- 台湾企業がすでに中国内に多数の工場を所有し、中国メーカーの需要も取り込んでいる。
結論から言えば、製造受託サービスは今後も台湾企業の独壇場のビジネスであり続けるという事。
安全保障に直結した戦略
「アメリカは台湾を中国から守りたい」という意志をもっているが、その理由の一つが台湾にはハイテク企業・製造受託業が集中していることがあげられる。
半導体受託製造ではTSMCやUMC、電子製品受託製造ではホンハイ、ペガトロン、ウィストロン、コンパル、クアンタなど。
もともと台湾は「日米とライバル関係ではなく、協力関係になっていくべき」という国家戦略があり、それが受託製造産業の発展をもたらしてきたところがある。それがアメリカ企業との深い関係をもたらし、現在では国家の経済安全保障の強化につながっている。
また、台湾のEMS企業は多くが中国に工場があり、中国人の雇用を支えている立場。中国は失業率に問題を抱えるため、中国は台湾企業に下手な対応を取る事ができない。台湾が中国に対して強気に出る事ができる理由。
日本のEMS企業
日本のEMS企業は、シークスやUMCエレクトロニクス、スミトロニクスなどがある。いずれの企業においても車載関連や産業向け電子機器が中心。売上規模は以下。
- シークス……売上高1815億円(2020年度)
- UMCエレクトロニクス……売上高1361億円(2020年度)
- スミトロニクス……売上高1243億円(2020年度)
なお、日本には台湾のホンハイやウィストロンのような売上規模のEMS企業は存在しない。そもそもEMSは、先進国の人件費高騰の問題を解決する目的で形成されたビジネスなので、日本のような人件費が高い国では発展していなくても仕方ない。